前回の記事では株価がランダムな動きをすると仮定すると、リターンの確率分布が対数正規分布に従うと紹介しましした。
ではランダムな動きをする株にレバレッジを加えるとどうなるか見てみます。レバレッジを加えるETFにはS&P500のレバレッジ3倍ETFのSPXLなどがあります。
株価が「ある一定方向に動く」と「ランダムに変動する」という2つの性質をもつと仮定すると、ある時刻の株価は下のように表現できます。
ここにL倍のレバレッジをかけたときの「資産」の変動は次の式で表せます。
この式の意味を図示したのが下の図です。資産は50%の確率で上がるか下がるかしますが、L倍のレバレッジが加わっているので上げ幅と下げ幅がレバレッジなし(L=1)よりも大きくなることが分かります。
こうやって株価は時間が経つにつれてちょこちょこ動く。その分布は対数正規分布をとることが分かります。そしてその分布の平均と分散も分かります。平均とリターンの数式を見て分かるように式の中に時間が入っています。だから平均と分散は時間に依存します。
レバレッジがある場合とない場合で対数正規分布の平均値・分散・中央値はどう違うか?それをまとめたのが下の表です。
横に並べるだけではなく、レバレッジある場合がない場合より何倍大きくなるかを示したのが下の表です。
これをどのように解釈するか?
平均値はシンプルです。1年後の平均値を計算すると、レバレッジありの平均値はレバレッジなしのL倍になります。ただし2年目以降は複利の効果が効いてきて平均値はL倍よりも大きくなります。
分散もシンプルです。式はややこしいですが、Lは1よりも大きいと仮定しているので、Lが大きいほど分散も大きくなります。
最後に中央値を見ます。中央値の式を見るとexp()の中身がLの2次関数になることが分かります。つまりLに対して放物線を描くということです。言い換えると中央値はLがある値の時に最大となる。
過去の米国株式インデックスを参考に収益率7%・標準偏差20%としてLに対する平均値と中央値をプロットしてみたのが下のグラフです。
中央値はL=1.75のときに最大値をとることが分かります。平均値はレバレッジを大きくすればするほど大きくなるが、中央値はレバレッジを1.75倍以上にすると小さくなる。
つまりこういうことです。レバレッジをかけると資産価値の対数正規分の端っこのほうが立ち上がってくる。その結果、高いリターンを得る確率が大きくなるためにリターンの平均値も大きくなる。レバレッジを高めるほど、そんな「一握りの」高リターンのためがますます平均値が引き上げる。だからレバレッジが大きいほど中央値が下がる。
中央値の定義を再確認します。中央値はデータを小さい値から順に並べたときにちょうど真ん中にくる値です。
つまりリターンの分布の中央値とは「中央値以上になる確率は50%」である値のこと。「中央値が下がる」とは、「高リターンを得る確率が下がる」ことを意味しています。
これは平均年収の統計データと似ていますね。平均年収400万円と公表されても、実はとびきりの高所得者が平均を引き上げているだけで、多くの人はそれを実感していない。
だから「平均値だけの公表は意味なし。平均じゃなくて中央値を出せ。」となる。よくネットで荒れるやつです。
というわけでまとめると、
レバレッジを大きくするほど
(1) リターンの平均値は大きくなる。
(2) リスクも大きくなる。
(3) 中央値はある閾値を超えると小さくなる。
(3)は意外でした。中央値が下がるというのは盲点です。
上の例でみたように米国株式指数であれば1.75倍を超えるレバレッジをかけると中央値は減るし、ましてや3倍レバレッジの中央値はレバレッジ0.5倍と同じなんです。
最後に中央値が時間経過とともにどのように変化するかを示したのが下のグラフです。
どのケースでも中央値は時間経過とともに上昇します。でも3倍レバレッジはレバレッジなしよりも中央値の上昇率は下がるのです。
そういえば昔読んだ「ライフサイクル投資術」には「レバレッジかけるならせめて2倍にしろ。年取ればとるほどレバレッジは下げていけ。」と書いていました。
S&P500で考えると「レバレッジ2倍」は中央値を最大化する閾値にまあまあ近く悪い値ではないです。そして「時間が経つほどレバレッジを下げろ」という指摘も、時間経過ともに中央値が下がる傾向への対策もとれている投資法だと思います。
だからレバレッジをかけるならライフサイクル投資術に沿ったやり方をとるのがいいかもしれませんね。レバレッジ3倍でも短期勝負ならいいでしょう。
でも長期でレバレッジ3倍は危険すぎて私ならやらない 。リスクが3倍というだけでなく、時間経過に伴う中央値の上昇率がレバレッジなしよりも低い点が致命的で、とるリスクが割に合わないと感じるからです。
ちなみに3倍レバレッジをかけると、レバなしより元本合割れ確率が高くなります。しかも長期で投資しても元本割れ確率の低下は鈍い。この点は別記事で紹介していますが、やはり3倍レバレッジが危険だと私が感じる要素の一つです。
追記:
(1) 読者様のリクエストに応じて少し噛み砕いた説明を追加しました。
ポイントだけ引用:
異常に高いリターンがたった数%でも平均値としては高い値が出てしまうので、安易に平均値だけを比較して投資するべきではないと思っています。・・・
平均値は指標のひとつに過ぎないというのが私の考えです。見るべきは「確率分布」で、その形状を理解する指標が平均値と中央値です。
(2) ポートフォリオの最適なリスク資産の割合は、以下の式で計算できます。
リスク資産の最適割合 = 最適レバレッジ比率 / 相対的リスク回避度
例えばS&P500であれば、リスク資産の最適割合 = 1.75 / 相対的リスク回避度 で計算できます。詳しくは過去記事参照。
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「ライフサイクル投資術」で現代ポートフォリオ理論に言及していなかった気がしますが。それでも「レバレッジやるなら2倍」は絶妙なところを突いてきているなと思います。
現代ポートフォリオ理論をまとめた記事を書いています。
さらに噛み砕いた説明:
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コレは面白いデータですね。
実は私、JrニーサはSPXLを買っているんですよ。
次から二倍のレバにしようかな。
あと、超当たり前だけどJrニーサの資金は口座名義人の資産なんですよ。
払うのは親なのに・・(証券会社に確認済み)
上手く運用出来て数千万に成った暁に
お金有難う!じゃあ、さようなら!!とか言われたら
あ、ハイ。どうぞ、お元気で・・って。チーンww
コメントありがとうございます。
あくまで現代ポートフォリオ理論の枠組みで考えるとレバレッジ3倍は高すぎるというの個人的な意見です。2倍程度が妥当かと。
コロナ暴落のように(今から思い返せばですが)確実に株価が上がるタイミングで3倍レバレッジでぶち込んでおいて売りぬくという短期決戦なら3倍も有効かもしれませんね。
Jrニーサって撤廃されるんではなかったでしたっけ?
超良記事でした。ありがとうございます。
結論をみるとレバレッジ1.75倍(実際は2倍しかないですが)かけての長期投資も、積極的に考えた方がいいのでしょうか?分散が大きい以外のデメリットはないでしょうか?
コメントありがとうございます。
リスクとリターンが決まっているポートフォリオには最適なレバレッジがあるというのが私の理解です。従って分散が大きくなることに目をつぶれば、1.75倍のレバレッジが最適な戦略となると思っています。ただし厳密にいえばレバレッジをかけるのに手数料がかかるはずなので、手数料も考慮したトータルリターンを考えるべきかと思います。参考になれば幸いです。
「ただし2年目以降は複利の効果が効いてきて平均値はL倍よりも大きくなります。」
とありますが、SXPLはDailyなので「二日目以降は複利の効果が効いてきて〜」になるのではないでしょうか。
コメントありがとうございます。
>「二日目以降は複利の効果が効いてきて〜」になるのではないでしょうか。
厳密にいえばそれが正しいです。ですが、年間平均リターンで議論しているので年単位(つまり、「2年目以降~」)の書き方にして話に統一性を持たせるようにしています。
非常に示唆に富む内容でした。ありがとうございます。
1.75の比率を算出される際に、SP500の過去平均リターン7%を用いられていますが、仮に5%を適用した際には1.75が変動するものでしょうか。すみません、数式を追う力がなく、リターンの設定が1.75にどのような影響を与えるのか考えることができませんでした。。。個人的には今後のSP500の成長が鈍化すると考えていて、その結果の最適レバレッジをお伺いしたいという趣旨です。
コメントありがとうございます。
リスクを20%のままにしてリターンだけを5%に下げた場合、最適レバレッジは1.25です。
レバレッジ型ETFを買っているのでとても興味深く拝見いたしました。
(昔習っているはずなのに・・)正直数式の意味することはよくわからなかったのですが、レバレッジ型は1.75倍の時が中央値が最も良さそうだということだけは理解できました。
その上で一つ疑問に思えたのは、例えばブル3倍は日々の値動きが3倍を目指しているということですが、実際のSPXとSPXLの値動きをプロットすると、近似式として
(SPXL変動率)=2.9164358×(SPX変動率)+0.0067838(R^2=0.9887390)
となり、実際のレバレッジは3倍よりも少し小さい傾向があること、何故か切片がプラスになる(SPXがマイナスでもSPXLはプラスになるケースが極わずかにある)傾向があるようでした。信託報酬は毎日引かれているので切片はマイナスになるものと予想していたのですが、TQQQやSOXLに関しても同様の傾向が見られました。
https://tochi-pechi.com/?p=17313
そこで伺いたいのは、これらの理論値と実際の変動率との誤差を踏まえた場合、最適値である1.75倍はどの程度変動する、ないしは影響は殆どないと考えられるのでしょうか?
コメントありがとうございます。
>そこで伺いたいのは、これらの理論値と実際の変動率との誤差を踏まえた場合、最適値である1.75倍はどの程度変動する、ないしは影響は殆どないと考えられるのでしょうか?
SPXLの変動率がSPXの変動率にピッタリ3倍ではなく実際はわずかに乖離があるようですが、それとレバレッジ最適値が1.75倍であることに関係はありません。
別の記事に書いていますが、レバレッジ1.75倍を実際に作り出そうとすればSPDR (レバなし)とSPXL (レバ3倍)を10:6で混ぜればつくれます。
SPXLがピッタリ3倍の動きをしないなら、その比率が少し変わると思います。ですが、2.91倍の変動とのことなので、その比率の違いはゴミだと思います。
https://chandraroom.com/sp500-leverage-spdr-spxl-mix
大変すばらしい記事拝見させていただきました。
例えばTQQQ50%。TMF50%で保有している場合のレバレッジはどのように計算すべきでしょうか?
国債はマイナスのレバレッジとしてリスクを計算すべきでしょうか?
よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
TQQQとTMFそれぞれのリスク・リターンは何%でしょうか?
それが分かれば計算できます。
こんにちは。
間違っているかもしれないですが、トレーディングビューからデータをダウンロードして
計算したところTQQQが年リターン53.98%、リスクが33.54%。
TMFが年リターンが4.9%、リスクが11.6%です。
よろしくお願いいたします。
50%:50%で混ぜるならリターン:29.44%、リスク:22.57% です。足して2で割れば計算できます。
すみません、この計算結果は間違いでした。
修正版の新しい記事を出すことにします。
記事作成ありがとうございます。以下2点お伺いします。
①各年度の利率が分かるとき、μ、σはどのように算出すればよいでしょう?
正規分布を仮定して算術平均・分散を当てはめるのでしょうか。
②表に示された平均値は、μが大きいほど誤差が発生するでしょうか。
例えば、レバレッジなし/平均値のS0・exp(μt)という部分があります。
これは「dS/dt=S・μ」を積分した結果であり、その通りと思います。
実際の数値で考えると、例えばS0=100円、μ=10%のとき、1年後はS1=110円ですが、
計算式で考えると「S1=100・exp(10%)=110.52円」となり、0.52円ずれます。
こうなる理由は年利○%が年を最小単位とする一方、ドリフト項の積分が
連続時間で行われているためと理解したのですが、正しいでしょうか。
ご質問ありがとうございます。
>①各年度の利率が分かるとき、μ、σはどのように算出すればよいでしょう?
正規分布を仮定して算術平均・分散を当てはめるのでしょうか。
その理解で正しいです。
具体的には以下の手順を踏んでいます。
(1)過去のデータを入手。
(2)1年間 (=365日)の株価上昇率を計算
(3)エクセルで正規分布をフィッティング。
②表に示された平均値は、μが大きいほど誤差が発生するでしょうか。
例えば、レバレッジなし/平均値のS0・exp(μt)という部分があります。
これは「dS/dt=S・μ」を積分した結果であり、その通りと思います。
実際の数値で考えると、例えばS0=100円、μ=10%のとき、1年後はS1=110円ですが、
計算式で考えると「S1=100・exp(10%)=110.52円」となり、0.52円ずれます。
こうなる理由は年利○%が年を最小単位とする一方、ドリフト項の積分が
連続時間で行われているためと理解したのですが、正しいでしょうか。
>その理解で正しいです。
ズレは認識していて投資期間20年だとそれほど大きくずれなかったと記憶してます。
丁寧に回答頂き、ありがとうございます。
おかげさまで理解が深まりました。
レバレッジにかかる妥当なコストを考慮すると
米国株のリスク20、リターン7程度だと
最適レバレッジでも中央値上がらないと
思いますが、ちゃんドラさんはどう思いますか?
SPXLは経費率と金利で2%ぐらい
リターンを押し下げてるみたいです
リバランスでも課税コストがかかりますよね
コメントありがとうございます。
>米国株のリスク20、リターン7程度だと
最適レバレッジでも中央値上がらないと
思いますが、ちゃんドラさんはどう思いますか?
検証ではコストはない前提としています。
コストを考える場合はリターンを調整すればよいと思います。
例えば年間のコストがリターンの1%であれば、リターンを6%とする。
すると、最適レバレッジの値が下がります。
「最適レバレッジでも中央値上がらない」というよりも、「最適レバレッジの値が下がる」が正しいと思います。
>リバランスでも課税コストがかかりますよね
すみません、ここがよく分かりませんでした。
なぜリバランスが必要なのでしょうか?
最適レバレッジの商品は無いからです
SPDRとSPXLでバランスして作ると
ほっておくと比率がどんどんずれていって
リバランスが必要になると思います
リバランスすると含み益を一部失います
コスト無しのレバレッジ1倍と
コストをかけての最適レバレッジ
(コストでリターン6に下がったとして)
を比べるとどうなるんでしょうか?
>最適レバレッジの商品は無いからです
SPDRとSPXLでバランスして作ると
ほっておくと比率がどんどんずれていって
リバランスが必要になると思います
リバランスすると含み益を一部失います
ありがとうございます。理解できました。
>コスト無しのレバレッジ1倍と
コストをかけての最適レバレッジ
(コストでリターン6に下がったとして)
を比べるとどうなるんでしょうか?
分かりませんし、計算が煩雑になるのでシミュレーション予定もありません。
興味あれば計算してみてください。
chandra11 様
レバレッジについての素晴らしい記事ありがとうございます。
非常に勉強になります。
レバレッジに関して私が疑問に感じていることがあり、もしよろしければ御意見をお伺いしたいと思い、コメントさせていただきます。
1.レバレッジについて、よく耳にするのは「レバレッジ3倍は危険」などのように、多種多様なはずのレバレッジ商品をレバレッジの倍数で一括りにしている意見です。私はこれに違和感を感じております。レバレッジが何倍かということよりも、その商品のリスクやリターンが自分に合っているかが重要ではないかと思うのです。
2.2点目はぼんやりとした疑問になります。レバレッジ商品のデメリットとして、レンジ相場での逓減が大きいという説明がされますが、これにも違和感があります。chandra11様も「発生確率が完全に見過ごされている」と指摘されておりますが、私はそれに加えて、「低リスクな商品に投資すると、目標金額に到達するまでの年月が長くなるだろう。その結果、レンジ相場となる年月も長くなるのかもしれない。投資期間全体で見た時には低リスク商品もそれなりに逓減の影響を受けているのではないか?」と思うのです。この点についてchandra11様のご意見を伺いたいです。
低リスクな商品は、精神的な負担が比較的軽いのかもしれませんが、資産形成に時間がかかる印象です。時間がかかることに起因する、様々なデメリットが生じるのではないかと考えており、上記の疑問もその1つです。
コメントありがとうございます。回答いたします。
1点目:「レバレッジが何倍かということよりも、その商品のリスクやリターンが自分に合っているかが重要ではないかと思うのです。」には同感です。
「危険か否か」はあくまで個人のリスク許容度によります。
ただし、それを言い出すと、どんな金融商品でも(極端な話、レバレッジ10倍の金融商品でも)自分に合ってるかどうかが大事、という結論になると思います。(少し屁理屈ですが)
一般的に言われる「レバレッジ3倍は危険」は、「(一般的なリスク許容度をもつ多くの人にとっては)レバレッジ3倍は危険」とカッコつきで読むとシックリくるのではないでしょうか?
2点目:「投資期間全体で見た時には低リスク商品もそれなりに逓減の影響を受けているのではないか?」ですが、
すみません、これはよく分かりません。
返信ありがとうございます。
レバレッジ商品への投資は少数派なのかもしれませんが、自分には合っていると思うので、しばらくは我が道を貫いてみようと思います。
金融工学を用いた理論的で非常に興味深い分析ありがとうございます。
1点だけ気になったのは「時間経過ともに中央値が下がる」などの記述です。数式を見る限りレバレッジの有無に関わらず株価の中央値はtと線形の関係にあることから、投資の時間軸は関係ないのではないのでしょうか。言ってしまえば投資の時間軸に関わらず、原資産の平均リターン、ボラティリティに応じた正しいレバレッジを選べなければ中央値ベースでは負けが確定しているというものです。実際、グラフもtの値に関わらずレバレッジ1.75>1>3の関係が成り立っているようです。
この分析は「レバレッジETFは複利効果の影響で長期パフォーマンスが低下していくので資産形成には不適切」という通説と全く異なるものであり興味深く考察しております。
コメントありがとうございます。
記事では「3倍レバレッジはレバレッジなしよりも中央値の上昇率は下がる」と書いているので、なお様指摘のように「時間経過ともに中央値が下がる」とは書いていません。
>この分析は「レバレッジETFは複利効果の影響で長期パフォーマンスが低下していくので資産形成には不適切」という通説と全く異なるものであり興味深く考察しております。
このような通説の多くには、統計的な手法を適用した定量的な説明が欠けていると感じています。「通説ではそうだけどモデルを立てて計算してみたらそうはならないよね」という発見が個人的な醍醐味ですね。
ありがとうございます。気になってさらに突っ込んで調べてみました。
Avellaneda & Zhang ‘Path-dependence of Leveraged ETF returns’ (2009)によると以下のような関係が成り立つようです(借入コストなどは無視)。
S_lev_t / S_lev_0 = (S_t / S_0)^L * exp(0.5 * (L – L^2) * sigma^2 * t)
S_lev_tは時点tにおけるレバレッジETFの価格、Lはレバレッジです。
つまりsigma = 0の状況ではS_lev_t / S_lev_0 = (S_t / S_0)^Lの関係が成り立つが、sigma > 0の状況では時間が経過すると原資産と比較して価格が低下していくという関係が成り立つようです。世間で言われている「複利効果の影響」というのはおそらくは99.9%の人が全くそのメカニズムを理解しないで使っていますが、ボラティリティが大きく、かつ、保有期間が長くなるほど、レバレッジETFは通常のETFと比較してアンダーパフォームしやすくなる、という関係は一応成り立ちそうです。
ただし、株式市場ではmu > 0すなわちS_t / S_0 > 1の関係が見られる中でdecay effectを考慮してもなお魅力的な投資戦略はあるかもしれず引き続き考えてみようと思っています。
コメントありがとうございます。私も論文を読んでみます。
最近、あるアイデアを思い付いたので、古い記事へのコメントですが、ご容赦ください。
私の長年(?!)の疑問は「レバレッジの最適値が1.75(中央値が最大の時のレバレッジ)というのは小さ過ぎないか」です。直感的には「投資期間が充分長ければ(20年とか)、レバレッジ3倍でも元が取れる」という感じなのに、チャンドラさんの計算ではレバレッジの最適値は1.75となります。
この違いの原因について思い付いたことは、「”中央値で評価をする”というのは”期待値を計算する時に、有利な方の半分の可能性を捨てて期待値を計算している”ことを意味するのはないか」ということです。正確に”半分”ではないのかもしれませんが、上位50%側で発生するリターンを捨てて期待値を計算していることになっていないでしょうか。
「サンクトペテルブルクのパラドックス」の「超低確率で発生する超高額賞金を期待値に反映させると、直感に反する期待値(∞)が計算される」の裏返しの話ではないかと思います。「サンクトペテルブルクのパラドックス」では超低確率事象の賞金まで期待値に反映させたので、異常に大きな期待値が計算されました。
今回の”中央値で評価”はその逆で、普通でも発生しそうな事象(上位20%~50%とか)も期待値に反映させていないため、期待値が直感よりも低くなってしまったような気がします。つまり、平均値:発生する事象の全領域を対象に期待値を計算する、中央値:発生する事象の(低リターン側の)50%の領域で期待値を計算する、という考え方なのではないでしょうか。
平均値は「超低確率で発生する超高リターン」まで反映して期待値が計算されるので、やり過ぎなのは同意ですが、中央値(下位50%の期待値)というのもやり過ぎで、もう少し有利なありそうな確率まで反映した期待値を計算して、評価をするのが妥当ではないかと考えました。
「ありそうな確率」をいくつにするかは価値判断の領域ですが、統計的仮説検定で「危険率5%」が使用されることもあるので、上位5%を捨てて期待値を計算するのはあり得る計算方法ではないかと思います。つまり、期待値の計算範囲として「5%~100%を対象」とする方法です(中央値は「50%~100%を対象」、平均値は「0%~100%を対象」)。
この考えを進めると、「超低確率で発生する超低リターン」を期待値計算に反映させるのか、という議論はあると思いますが、世の中に自動車保険があることを考えると、「超低確率で発生する超低リターン」は将来の期待値計算に反映しておいても良さそうです。”5%~100%を対象とした期待値”と”5%~95%を対象とした期待値”は大差なさそうですが。
これはサンプリングのために別の確率密度関数を使う重点サンプリング(importance sampling)の一種と考えることも出来ると思います。
コメントありがとうございます。全ての内容を理解できたわけではないのですが、気づいた点だけ返信します。
>私の長年(?!)の疑問は「レバレッジの最適値が1.75(中央値が最大の時のレバレッジ)というのは小さ過ぎないか」です。直感的には「投資期間が充分長ければ(20年とか)、レバレッジ3倍でも元が取れる」という感じなのに、チャンドラさんの計算ではレバレッジの最適値は1.75となります。
「最適値」の定義に注意してください。ここで言う最適とは「中央値が最大」です。元がとれる(言い換えれば元本割れ確率が低い)とは何の関係もありません。
>この違いの原因について思い付いたことは、「”中央値で評価をする”というのは”期待値を計算する時に、有利な方の半分の可能性を捨てて期待値を計算している”ことを意味するのはないか」ということです。正確に”半分”ではないのかもしれませんが、上位50%側で発生するリターンを捨てて期待値を計算していることになっていないでしょうか。
「中央値」と「期待値」は定義が異なります。例えば「リターンの中央値が2倍」は「リターンが2倍以上になる確率がちょうど50%」です。期待値とは関係ないです。「中央値」と「上位50%側で発生するリターンを捨てて期待値を計算」は何の関係もないと思います。
>平均値は「超低確率で発生する超高リターン」まで反映して期待値が計算されるので、やり過ぎなのは同意ですが、中央値(下位50%の期待値)というのもやり過ぎで、もう少し有利なありそうな確率まで反映した期待値を計算して、評価をするのが妥当ではないかと考えました。
この点は概ね同意ですが、他に簡単で明確な評価方法がないのが現実ではないでしょうか?少なくとも「中央値最大」は平均値最大の「超低確率で発生する超高リターン」を加えてしまうデメリットを回避できます。「上位5%を捨てて期待値を計算」は面白いアイディアだと思いましたが、「5%の根拠は?」と突っ込みが入る可能性は残されています。
中央値の件は、ご回答、ありがとうございます。
いただいたコメントを良く理解したいので、もう少し時間をください。
今日は別件で、μ,σの値に関して不明点がありますので、ご教授ください。
割合(レバあり/レバなし)の中央値 exp((L-1)μt-(L^2-1)(σ^2)t/2) から、この割合が最大の時のLは μ/(σ^2) となるのは判りました。
今はμ=7%、σ=20%なので、0.07/(0.2^2)=1.75 というのは判るのですが、ここで使われているμとσはexpの中の値なので、μ=log(1+0.07)=0.02938、σ=log(1+0.2)=0.07918 を使う必要があるのではないでしょうか?
レバレッジ無しの平均値がS0exp(μt)なので、μ=log(1+0.07)にしないとつじつまが合わないと考えます。σの方はlog(1+0.2)が正解か自信がないですが。
もし、μ=0.02938,σ=0.07918であれば、最大時のLは0.02938/(0.07918^2)=4.686 とかなり大きな数になります。
申し訳ありません、上記私のコメントで、logがlog10になっていました。ここはlnを使うべきでした。
μ=ln(1+0.07)=0.06766、σ=ln(1+0.2)=0.18232、μ/(σ^2)=0.06766/(0.1823^2)=2.036
2.036なら1.75との差は大きな影響はないのかもしれません(7%も20%も有効数字1~2桁でしょうから)。
>今はμ=7%、σ=20%なので、0.07/(0.2^2)=1.75 というのは判るのですが、ここで使われているμとσはexpの中の値なので、μ=log(1+0.07)=0.02938、σ=log(1+0.2)=0.07918 を使う必要があるのではないでしょうか?
μ=7%、σ=20%、これが前提条件です。μ=log(1+0.07)、σ=log(1+0.2)と読み替えている理由が理解できません。すみません。
記事では、レバレッジ無しのt年後の平均は S0exp(μt) となっています。
S0exp(μt)=S0(exp(μ)^t)=S0(1.07^t)と考えて、exp(μ)=1.07 → μ=ln(1.07)=0.06766
と理解しました。
σは、上記にも書きましたように、ln(1.2)とすべきか良く判りませんが、μと扱いを合わせる必要があると考えました。