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【レビュー】ライフサイクル投資術を図解しながら読み解いていく。

投稿日:2020年1月27日 更新日:




 

株式投資で一番楽なのは間違いなくドルコスト平均法です。ドルコスト平均法は定期的に株式を一定金額で取得し続ける手法なので、株式を高値掴みするリスクを減らすことができます。これが時間分散です。

ところが、ドルコスト平均法では投資額が徐々に積みあがるため投資期間の終盤でリターンのバラツキが大きくなるというデメリットがあるのです。オイオイ若いうちにリスク取れと言いながら、実はジジイになってからとってるリスクの方が大きいんじゃないかと ww

そのへんの事を詳しく書いている貴重な本を見つけました。「ライフサイクル投資術」です。

ライフサイクル投資術を一言で言い表すと、「将来に貯金する予定のお金の現在価値を計算し、その一部を今使って株式に投資する手法」です。

 

色々と細かいことが書いてあるので頭を整理するために図解しながら読み解いていきます。

 

「レバレッジ = 危険」ってわけじゃない

 

「ライフサイクル投資術」にある会社員のケースが紹介されています。これをモデルとして図解してみます。

今30歳で毎年安定して10万ドルを稼ぎ、5000ドルを貯金にまわしているとする。これは今12万ドルを債券に投資していることに相当することが分かる。将来36年にわたって毎年5000ドルを貯金するのは、現在価値に直すと12万ドルに相当するからである。

だから今手元に財産が5万ドルあってその90%を株式に投資していても、資産の90%を株式に投資しているとはいえない。正確には、株式に4万5000ドル、債券に12万5000ドル(今の財産のうち5000ドルと将来の貯金の現在価値12万ドル)を投資していることになる。本当の資産ポートフォリオ全体のうち、株式に投資しているのはたった26%にすぎないのだ。

引用:ライフサイクル投資術

 

話を簡潔にするために主語を「私」とします。私は30歳現在手元にあるのが5万ドルで、将来毎年5000ドルを貯金できることが確実。毎年貯金する5000ドルを現在価値に換算すると12万ドルになる。だから30歳時点で資産は合計170万ドルとなる。(※本には書いていませんが割引は2.3%で米国債に相当。)

 

私は30歳でまだ若いからリスクをとって株式に投資しようとしている。株式に90%、国債に10%投資しよう。手元にあるのが5万ドルだから4.5万ドル分の株式を買えば株式比率90%にできる。

いやいや違うと ww

将来確実に入ってくる貯金を現在価値に換算すると120万円。だから手元資金+貯金の現在価値を合計した170万円が手元にあると考えれば、4.5万ドルの株式買ったところで全体の26%にしかすぎない。

リスクをとって資産の株式比率を90%に高めているつもりが、将来確実に手に入るお金を考慮するとその比率は26%までに下がる。リスクとってないやん ww というわけです。

 

手元資金+貯金の現在価値は170万円。この株式比率を90%まで高めるには15.3万ドルが必要。ここで悩みが発生。今手元には5万ドルしかない。全然足りないじゃないか。ここで出てくるのが「レバレッジ」という考え方です。2倍のレバレッジをかければ手元の5万ドルを元手に10万ドル分の株を買うことができるのです。この場合株価が5%上がれば10%の利益が得られるからリターンが2倍になります。

手元の5万ドルに2倍のレバレッジをかけると買うことが出来る株は10万ドル分。それでも15.3万ドルには足りない。でも「ライフサイクル投資術」はレバレッジ2倍を超えることを推奨していません。レバレッジが高いほど株価が下がった場合の損も大きくなるのでスッカラカンになるリスクが高いからです。

たとえ今の株式比率90%が満たせなくても、とにかく若いうちにレバレッジは2倍にして、頑張って株式比率を高めよう、というのが本書の主張なのです。

 

というわけで、ここまでの話をまとめてみると:

(1)「今」の手元の資金の大半を株式に投資しても、生涯の貯金額から見たら株式比率は低い。

(2) 株式比率を高めるにはレバレッジをかければいい。レバレッジは最大2倍とする。

(3) レバレッジとかリスク高すぎんだろ ww という前によく考えてほしい。将来貯金できるんだからその分の現在価値も考慮すれば実質レバレッジかけてない(つまり株式比率が100%未満)ことになる。

 

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ライフサイクル投資術でリスクを減らす

 

「ライフサイクル投資術」は1871年から2009年までのアメリカ株式市場のデータを使ってライフサイクル投資術が他の手法に比べてリスクを減らせることを示しています。モデルは23歳で投資を始めて67歳で引退する会社員。毎年収入の4%を貯金して引退の年の収入が10万ドルと仮定。比較しているのは次の2つの戦略。

割合一定戦略 (75/75):株式比率を常に75%に維持する。

ライフサイクル戦略 (200/50):初期に200%のレバレッジをかける。引退間に50%になるように引き下げる。(引退前に80%とか90%ではなく50%まで下げているのは、割合一定戦略と平均リターンを同じにするため。)

結果は次の通りで、ライフサイクル戦略の方がリスク(平均リターンからの振れ幅)が小さくなっていることが分かります。

 

引用:ライフサイクル投資術

 

ライフサイクル分散投資は株式市場にもっとお金を晒すからリスクが減るのではない。株式市場に晒すお金は同じはずだ。平均リターンが同じだからである。

リスクが減るのは株式のエクスポージャーをもっと長い期間に均して配分したからだ。

元手は同じ。つまり投資額の合計は同じだけれど、大部分が20年間に集中している戦略 (75/75戦略)と、レバレッジを使ってそれと同じ投資額を44年間にもっと均等に振り分けた戦略 (200/50戦略)を比べている。実質的に、投資家は同じ投資金額をより長い期間に均して配分する。我々の戦略の方がもっとうまく分散投資出来てリスクが減らせる理由はそれだ。

引用:ライフサイクル投資術

 

株式比率の推移は次の通り。初期には2倍のレバレッジをかける期間を10年程度設けて株式を市場に晒す期間を増やす。そのあと20年程度かけてレバレッジを減らしていく。残りの15年はレバレッジをかけずに株式比率を50%まで下げる。

 

市場に晒す株式の推移は下の図の通り。75/75戦略では若い頃に市場に晒す資産額が少なすぎる。一方で200/50戦略では若い頃にレバレッジをかけることで市場に晒す期間を長くできている。これが「ライフサイクル投資術」が主張する「株式のエキスポージャーを長い期間に均して配分する」ということ。

 

イメージしやすいように言うと、75/75戦略で30歳時点で市場に晒せる金額を、200/50戦略ではいきなり初年度に晒すことができるということ。

 

リターンを大きくしたい場合はどうすればいいか?引退前の株式比率を大きくすればいいのです。引退前の比率を61%とした200/61戦略をとると、リスク(平均リターンからの振れ幅)を一定にしたまま平均リターンを14万ドル増やすことができる。

 

引用:ライフサイクル投資術

ちなみに200/83ライフサイクル戦術を使うと、過去のどの年に引退しても75/75戦略や90/50戦略よりも高いリターンを出せることが分かっています。うーん、強いね ww

 

引用:ライフサイクル投資術

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ライフサイクル投資術のやり方

 

ではライフサイクル投資法はどうやるか?次と通りです。

 

(1) 将来貯金できる金額の現在価値を計算

(2) 自分の相対リスク回避度 (RPA)を決める

(3) RPAからサミュエルソンの割合を計算

(4) 株式投資比率からレバレッジかける期間を決める

 

 

(1) 将来貯金できる金額の現在価値を計算

 

私が現在手元にあるお金と将来貯金できるお金を次の通りだと仮定。

・30歳で手元にある資金は300万円

・65歳まで35年間、毎年30万円貯金する

・国債の利回りはゼロ

すると将来貯金できる金額は1050万円。国債の利回りはゼロなので現在価値はそのまま1050万円。今手元にある資金とあわせると合計1350万円。

 

(2) 自分の相対リスク回避度 (RPA)を決める

 

相対的リスク回避度(RPA)とは、人がリスクに対してとる態度を数字にしたもの。何故RPAを計算するのかというと、資産における株式の比率を計算するのにRPAが必要だから。一連の流れを書いておくと、

RPAを計算 → サミュエルソンの割合を計算 → 自分のリスク許容度にあわせた株式比率が分かる

RPAとリスク許容度は下のグラフで表すことが出来ます。RPAが小さいほどリスクを好む傾向である一方、RPAが大きいほどリスクを避ける傾向が強い。

 

例えば株価が暴落して最悪のケースで収入の50%のリスクを失う覚悟がある人のRPAは1.0。収入の20%までなら許せる人ならRPAは3.76。ちなみにアンケートによると80%の人はRPAが3.76以上だそうです。

ここでは私は収入の1/3を失う覚悟があるとしてRPA=2.0とする。

 

(3) RPAからサミュエルソンの割合を計算

 

サミュエルソンの割合は次の式で表せる。

サミュエルソンの割合 = (リターン) / (リスクの2乗xRPA)

リターンは株のリターンと国債のリターンの差。将来のリスクとリターンを予想するのは難しいので、過去の米国市場のデータ(株の年平均リターン:7.87%、国債のリターン:2.83%、リスク:17.86%)を用いることで、サミュエルソンの割合は次のようになる。

サミュエルソンの割合 = 1.58 / RPA

私のRPA=2.0だったので、サミュエルソンの割合は1.58/2.0=0.79。つまり資産の株式比率を79%にする。

言い換えると、ライフサイクル戦略 (200/79)をとる。

 

(4) 株式投資比率からレバレッジかける期間を決める

 

ライフサイクル戦略 (200/79)、言い換えると退職する65歳時の株式比率が79%になるようにレバレッジを計算。すると38歳までは2倍のレバレッジをかけ、53歳まで2以下のレバレッジをかけたあと、54歳以降はレバレッジをかけることなく貯金額を投資する。すると株式比率は79%になる。

 

レバレッジできるファンドは?

 

米国S&P500株価指数に連動するものとして有名なのはS&P500レバレッジ3倍ETF (SPXL)。ですが「ライフサイクル投資術」で推奨されているルール「レバレッジは2倍まで」を超えているので個人的にはおすすめしません。

いや、レバレッジが3倍かかれば十分な資金がない若いうちから株式市場へのエキスポージャーを増やせるのですが、株価が下がった時の絶望感がハンパではない。株価が10%下がれば3倍レバレッジで30%も下がるわけですからね。人間は10万円利益を得たときの嬉しさよりも10万円損した時の悲しさの方を重大に捉える生き物ですからね。レバレッジを高めすぎて大きな損を出したら株式投資自体を止めてしまうかもしれません。だから「ライフサイクル投資術」はレバレッジ2倍を推奨しているんです。

一方で、iFreeレバレッジ S&P500は指数の2倍を目指すのでやるならこちらの方がいいかもしれませんね。

ところで注意すべきは経費率や信託報酬。SPXLもiFreeもともに0.95%程度でレバレッジかけないインデックス・ファンドに比べるとかなり高い。経費が高いとリターンが減るわけですが、これが長期的にレバレッジなしと比べてどれぐらい効いてくるかはよく分かりません ww ですが本書に載せているケーススタディの結果は経費込みで計算されているとどこかに書いていたので、多少経費を見込んでも200/83戦略をとれば他の戦略に勝つことができるようですね。

 

引用:ライフサイクル投資術

 

まとめ

 

というわけで「ライフサイクル投資術」を解説してきました。まとめると:

・今の財産だけではなく将来手に入る財産に基づいて資産配分をする。

・若いうちに上限2倍のレバレッジをかけて株式に投資し、株式比率を徐々に下げていく。

・株式を市場に晒す期間を長くすることでリスクを減らすことができる。

 

私のように何も考えずドルコスト平均法でええやん ww と思っている人は、ドルコスト平均法で本当に時間分散できているのか考え直させてくれる良い本だと思います。

ところで、ライフサイクル術の一番のポイントは「将来貯金できるお金を若いうちに投資してしまおう」です。将来貯金できる、というのがポイントです。貯金できることが確実だからレバレッジ2倍かけたところで余裕なわけです。

言い方を変えると将来貯金できないならライフサイクル法はやめた方がいいんですよ ww レバレッジかかったまま運用し続けたら暴落したときに爆死します ww

会社が終身雇用をやめそうとか、家買って一生ローンを払い続けるとか、そもそも浪費癖があるとか、途中で貯金できなくなりそうな人にはおススメしません。将来貯金できるからこそ、今レバレッジをかけてリスクとれるんですから。

 

 

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執筆者:


  1. アバター MIMO より:

    はじめまして。
    素晴らしい記事をありがとうございます。

    レバレッジのかけ方について質問があります。
    以下の2パターンの方法を比較したとき、優劣はあるでしょうか?

    ・iFreeレバレッジ S&P500などの2倍レバレッジの商品100%のポートフォリオ
    ・経費率の低いレバレッジ1倍の現物 ETF とSPXLなどの3倍 レバレッジの組み合わせで全体のレバレッジを2倍としたポートフォリオ

    私は後者の方が経費率が低くなることに加え、部分的にNISA枠を利用できる、万が一レバレッジETF に何かしらのシステミックリスクが発生した場合に被害が少なくなるなどの優位性があるのではと考えました。

    ぜひご意見を伺いたく存じます。

    • chandra11 chandra11 より:

      ブログを読んでいただきありがとうございます。

      >私は後者の方が経費率が低くなることに加え、部分的にNISA枠を利用できる、万が一レバレッジETF に何かしらのシステミックリスクが発生した場合に被害が少なくなるなどの優位性があるのではと考えました。

      同じ考えです。経費率が低く、NISAが活用できるのは大きな利点だと思います。

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