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なぜ時価総額加重平均が最適なポートフォリオなのか?
これは現代ポートフォリオ理論から導き出される結論です。要は;
(1) 全てのリスク資産をリスク・リターン平面上でプロットしたとき、効率的フロンティア曲線上の接点ポートフォリオと全てのリスク資産の時価総額加重平均のポートフォリオが一致する。
(2) 接点ポートフォリオは最もシャープレシオが大きいポートフォリオである。
(3) 従ってリスク資産の時価総額加重平均は最適なポートフォリオである。
ということです。
(2)は過去記事で紹介しました。(3)は(1)と(2)から導き出される結論です。では(1)は?(1)はどのように証明されるのか?
それはCAPM (Capital Asset Pricing Model)で説明できます。そして(1)の証明方法はWikipediaの「CAPMの導出」に書いています。実はタダで手に入る大学の講義資料などを色々と探したのですが、Wikipediaが一番わかりやすかった。
以下はWikipediaからの引用+私の説明です。
CAPMでは4つの仮定を置きます。この詳細は割愛。
(1) 全ての投資家は平均分散分析によりポートフォリオを選択する。
(2) 全ての投資家は全ての金融資産の収益率の平均・分散について同一の予想を持つ。
(3) 金融市場は完全市場である。
(4) 無リスク資産が存在する。
Wikiの説明では、仮定(1)が成立するためには、全ての投資家の効用関数が2次関数の形式で、さらに全ての投資家がリスク回避的である必要があり、その仮定の下で以下の連立方程式が成立するとあります。
???来ましたね。いきなり何を言っているか分かりません ww
ただし、行列計算に慣れている人ならこの方程式さえ理解できれば、これ以降の式は追えます。つまり、この式がどのように導き出されるかさえ掴めれば、あとは理解できるというわけ。
ポイントは上でサラッと書いた「全ての投資家の効用関数が2次関数の形式で、さらに全ての投資家がリスク回避的である必要があり」の部分です。つまりこの記述のと上の方程式の間の行間を読めばよい。
「全ての投資家の効用関数が2次関数の形式で、さらに全ての投資家がリスク回避的である必要があり」はどのように数式で表現すればいいのか?資料から引用します。
効用:満足度
効用関数:資産xの時に得られる満足度
投資家の効用関数は資産の期待値と分散を用いて下のように近似できます。「近似」と書いた理由は効用関数を期待値の周りでテイラー展開して3次の項を無視しているからです。
ここでArrow-Plattの絶対危険回避度(リスク回避度)という指標λを導入して式を書き直すと、
効用関数は確かに分散の2次関数になっています。また効用関数の一階微分は正、二階微分は負なのでλは正となり、リスク回避的であることが分かります。
投資家は効用関数(=満足度)を最大にするポートフォリオを組みたいのです。それはどんなポートフォリオなのか?
期待値や分散などのパラメータとしてWikiに出てくるものを使って、ポートフォリオの効用関数を作ります。すると下のようになります。
分かりやすくするために行列の要素を書き出しました。上述のように投資家は効用関数を最大にしたいので、その結果の式も書いています。
ここまで分かると見えてきました。下段の式は効用関数をリスク資産の投資比率で偏微分して出てきた連立方程式です。よくみると資産iに関する式がWikiの式と同じだと分かります。つまりこういうこと。
やっと分かりましたね。つまりWikiで出てきた難しそうな式は投資家jの効用関数を最大化、つまり各リスク資産の投資比率で偏微分したものをゼロにしたときの式と等しかったというわけです。う~ん、気持ちィィッ!
ところでこの式は何を意味しているのか?
左辺はリスク資産iの期待収益率と無リスク資産の利子の差。
右辺は?分かりにくいので図示したのが下の図。つまりリスク資産iと(iも含めた)他のリスク資産の共分散を投資家jの投資比率で重みづけして和をとったもの。これに投資かjのリスク回避度をかけたもの。
つまり(ある資産の期待収益率)=(他の資産との共分散に重みづけして和をとったもの)x(リスク回避度)ということ。
この式を変形すると、(リスク回避度)=(ある資産の期待収益率) / (自分と他の資産との共分散との重みづけの和)です。この右辺はリターンをリスクで割っているのでシャープレシオっぽいです。
この式は、リスク回避度が大きいほどこの投資家の期待収益率が大きく分散が小さいことを意味していますが、これは直観的にも理解できます。
やっとWikiで出てくる一発目の式の意味が分かりました。あとは式を追えばいいだけなので詳細は割愛しますが、要点だけ抜き出します。
リスク資産iの時価総額をVi、投資家jの初期資産をWjとおくと、全てのリスク資産の時価総額加重平均ポートフォリオは下のように表現できます。
あとはトービンの分離定理を使えば時価総額加重平均ポートフォリオと接点ポートフォリオが一致することが分かるというわけです。接点ポートフォリオは下の図参照。
というわけでまとめると;
(1) 全てのリスク資産をリスク・リターン平面上でプロットしたとき、効率的フロンティア曲線上の接点ポートフォリオと全てのリスク資産の時価総額加重平均のポートフォリオが一致する。これは全ての投資家の効用関数を最大にした結果である。
(2) 接点ポートフォリオは最もシャープレシオが大きいポートフォリオである。
(3) 従ってリスク資産の時価総額加重平均は最適なポートフォリオである。
関連記事:
全くの素人ですが、幾つかの記事を読みました。面白かったです。
「トービンの分離定理を使えば時価総額加重平均ポートフォリオと接点ポートフォリオが一致することが分かる」の箇所が分かりませんでした…。トービンの分離定理は、接点ポートフォリオを決める問題と、リスクを調整するのは別問題という理解です。接点ポートフォリオさえ決まれば、あとは安全資産との比率を調整することで、risk/return座標で原点と接点ポートフォリオとの間の任意の点を選べる。どれを選んでも、所定のriskに対して最大のreturnを得ているという理解です。これと、「時価総額加重平均ポートフォリオと…」の部分がつながらず…。もし、分かりやすいイメージ図があれば、教えて下さい。
「時価総額加重平均ポートフォリオと…」のふわっとした理解は、以下です。
・高い収益性をもつ株は誰にも買われるので、時価総額が上がる。逆も同様。
・上記のため、時価総額と収益性との間には正の相関性(比例?)がある。
・risk/returnを最大化するため、収益性の高い株の配分を高めると、結果的に時価総額の高い株の配分を高めることになる。これが「時価総額加重平均ポートフォリオと…」の部分につながる。
コメントありがとうございます。
ちょっと分かりやすく書き直してみようと思います!
返信ありがとうございます。おそらくですが、自己解決しました。
wikiの「市場ポートフォリオと接点ポートフォリオ」のところで、分離定理に従って全員が行動するなら、それら2つのPFが一致するのは当然ですね。例えば、資産a、bを配分30%、70%で持つのが接点PFの場合、参加者のPFは必ず「3:7:現金」になります。現金比率は参加者のリスク回避度に依存しますが、リスク資産の比率は3:7から動きません。なので、参加者全員分の総和を取っても資産a、bの比率は3:7で、市場PFと接点PFは同じになります。ここまでの議論は、分離定理さえ成り立てばよく、wikiの「CAPMの導出」の数式展開は不要だと思いました。
「CAPMの導出」の数式展開は、「市場PFと接点PFは同じなのは分かった。では、市場PFにはどのような性質があるのか?」を解くために必要なのだと思います。最適化されたPFならば、資産配分(∝時価総額)と収益率に何らかの関係性があるはずで、その結論がwikiの概要にある数式と思います。