前回の続きです。
マートンのポートフォリオ問題とは、「個人の期待生涯効用を最大にするように最適な消費と最適な資産の組み合わせを決定する」という問題です。
「期待生涯効用」が分かりにくいと思うので数式なしで説明すると:
効用:得た利益に対する個人の主観的な満足度
期待効用:効用 (満足度)の期待値
期待生涯効用:各時点の消費の効用と保有資産の効用の和の期待値
ざっくりいえば、「毎年金を使って気持ちよく感じる度合いと、毎年口座に残ってる資産で気持ちよく感じる度合いの、それらの合計の期待値」です。
この期待効用最大化問題からどうやってリターン / (リスクの2乗 x RRA)が求められるか?
すでにリスク資産の最適割合はリターン / (リスクの2乗 x RRA)だと説明済みですが、マートン問題からどのようにこれが求まるかを見ていきます。
マートン問題のポイントは期待生涯効用の最大化です。結局何をやってるかというと、効用 (=個人の主観的な満足度)の最大化なんです。
繰り返すと、効用とは主観的な満足度。だから人によって効用は異なります。効用は関数でモデル化できますが、人によって異なるんだからその関数も異なります。
そこであるパラメータを導入してその関数の形状を色々と変えられるようにしてるんです。そのパラメータがまさに相対的リスク回避度 (RRA)なんです。
マートン問題は解くのが非常に難しいと書きましたが、RRAが全期間にわたって一定だと仮定すれば解析的に解けることが分かっています。
詳細は参考文献を参照して頂くとして、リスク資産の最適比率は:
最適比率 = リターン / (リスクの2乗 x RRA)
過去記事で書いたようにこれを書き換えると、
最適比率 = 最適レバレッジ / RRA
最適比率はRRA (相対的リスク回避度)に反比例する結果となりました。一般的にリスク回避傾向にある人はリスク資産の比率を小さくしますが、この式はその傾向と一致しています。
またRRAを1以上に限定してみた場合、最適比率の最大値は最適レバレッジに一致します。
リターンの中央値を最大に出来るのが最適レバレッジ。RRA=1のときに最適比率が最適レバレッジに一致するのはナカナカ不思議です。
ところで、参考文献やマートンの原論文を見ても分かる通りRRAはパラメータとしていきなりポンと出てきます。そこに具体的な数値はない。
じゃあRRAを具体的にどう計算するのかと言えば、結局は個人の主観によるのだから、あるモデルを作ってアンケートをとって、その回答をもとにRRAを「測定」して計算するしかない。
だから「ライフサイクル投資術」では仮想の転職話をつくって「確率50%で収入が2倍か、確率50%で収入がk%減るとき、あなたが許容できるkの値は?」という質問をもとに個人の相対的リスク回避度が計算できるようになっているんです。
ただし私はこの手法にちょっと違和感があります。リスク資産の最適割合を計算するのに収入の減額を使って相対的リスク回避度を計算するのは如何なものかと。なぜなら、そもそもリタイアしてる人にはこの手法は使えないからです。収入ゼロだし。
だから問題をこう変更すればいいのではないかと思います。「確率50%で今の資産が2倍か、確率50%で今の資産がk%減るとき、あなたが許容できるkの値は?」
kの値は年齢とともに変わります。それはつまりRRAもかわるということ。
今の資産が50%減っても痛くも痒くもないのであればレバレッジ1.75倍をかければいいし、0.000001%でも減って欲しくないのであればRRA=∞でリスク資産はゼロとすべき。
私はこのシンプルな式こそが「リスク資産の割合は個人のリスク許容度(つまり相対的リスク回避度)に従って決めろ」を最も明解で定量的に示した式だと思います。
参考までにS&P500の場合の計算方法を再掲します。
Step-1: RRAを下のグラフから読み取る。(ただし「収入」を「資産」と読み替える。)
Step-2: リスク資産の最適割合 = 1.75 / RRA
例えば資産の20%が最悪ゼロになってもよいと考えるのなら、RRA=3.8なのでリスク資産の最適割合は46%という結果になります。
私が知る限り、リスク資産の最適割合を計算するために最適レバレッジ比率を絡めた考え方を記載したものは他にありません。
従って私は今後、下の式をマートン・社畜の式と勝手に呼ぶことにします。
ポートフォリオを現金とS&P500だけで構成する場合:
S&P500の最適比率 = 1.75 / RRA
参考文献:
不確実性の下での最適消費・資産選択問題 板垣有記輔 (ググれば出てきます。)
RRAのグラフは「ライフサイクル投資術」から抜粋。
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