資産運用 金融工学

米国S&P500の最適なレバレッジが1.75倍の理由。だからSPXLの3倍は高すぎる。

投稿日:2020年10月19日 更新日:




 

米国S&P500の最適なレバレッジは1.75倍であることは前回の記事ですでに紹介しました。なぜかこの記事のアクセス数が異常に高かったので、もう少し分かりやすくかみ砕いた内容で再掲します。

【衝撃】レバレッジはリターンの中央値を下げる【現代ポートフォリオ理論】

ポートフォリオにレバレッジを加えると何が起きるかをまとめると次の通りです。

レバレッジを大きくするほど

(1) リターンの平均値は大きくなる。

(2) リスクも大きくなる。

(3) 中央値はある閾値を超えると小さくなる。

 

(1)と(2)は感覚的に分かる。でも(3)は盲点だと思います。

 

中央値をおさらいします。中央値の定義は「データを下から順に並べた時に中央に位置する値」です。例を挙げます。

株式投資している5人がいると仮定。各々の成績(リターン)は次の通り。

(ケース1) A:1%, B:2%, C:3%, D: 4%, E:5%

中央値は3%、平均値は3%

では各々の成績(リターン)が下のように変わるとどうなるか?

(ケース2) A:0.5%, B:1%, C:2%, D: 3%, E:10%

中央値は2%、平均値は3.3%

何が起きたかのか?ケース2では、Eが飛びぬけて高いリターンを得たので平均値が引き上げられました。一方でE以外のリターンが下がりました。従って、ケース1に比べてケース2は平均値が高いにも関わらず中央値が下がったのです。

話をS&P500への投資に戻しましょう。閾値を超えたレバレッジをかけると中央値が下がります。時間が経てば経つほど平均値は上がって中央値は下がる。少ない確率で実現する、とびぬけて高いリターンが立ち上がってくるからです。

実際にとびぬけて高いリターンが出るケースはあるのか?下のグラフを見れば分かります。これは別記事で紹介したもので、t年後のリターンの分布をグラフにしたものです。見てわかる通り、時間が経つほど右側の高いリターンを得る確率が立ち上がってくるのが分かります。

 

 

Sponsored Link



 

前回の記事ではポートフォリオにレバレッジ (L倍)をかけたときのリスクとリターンがどのように変化するかをみたグラフです。簡単にまとめると

(1) レバレッジを加えると平均値は単調増加する。

(2) レバレッジを加えると中央値は最大値をもつ。

 

では最適なレバレッジとは一体何か?「最適」とはつまり平均値と中央値が共に大きな状態だと言えます。平均値だけが大きくてもダメです。上の例で見たように例外的に高いリターンに引きずられて平均値が高くなっている可能性があるからです。

従って最適なレバレッジは中央値が最大となるレバレッジだと結論できます。その値はリターン(μ)をリスク(σ)の2乗で割った値です。リターンをリスクで割った値をシャープ・レシオと呼ぶので、シャープレシオをリスクで割った値とも言えます。

 

Sponsored Link



 

現代ポートフォリオ理論では全てのポートフォリオに固有のリスクとリターンがあることを前提に議論を進めます。リスクとリターンは過去の長期間のデータをもとに算出します。過去の実績に頼るしかないのは他に方法がないからです。

米国S&P500のリスク(σ)とリターン(μ)はそれぞれ20%と7%。このリターンをリスクの2乗で割ることで、最適なレバレッジである1.75が計算できるというわけです。S&P500のレバレッジ3倍ETFにはSPXLがありますが、3倍はこの最適値よりも明らかに高すぎる。

とはいえ、SPXLに投資するのは絶対やめるべきだ、というわけではありません。

最適レバレッジを超えるレバレッジをかけると長期投資すればするほど中央値はますます下がりますが、短期間ならたとえ中央値の低下を犠牲にしても最適レバより高い確率で高リターンを得る可能性があるからです。

ではその「短期間」とは何年なのか?それも計算できます。

この考察は別の機会に紹介します。

 

参考:

現代ポートフォリオ理論をまとめた記事を書いています。各記事へはこちらから。

インデックス投資やるなら知っておくべき | 現代ポートフォリオ理論を分かりやすく解説

 

記事が役に立ったらクリックお願いします↓

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ

-資産運用, 金融工学

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

S&P500 2倍レバレッジは暴落に弱いか定量的に分析する。幾何ブラウン運動+ジャンプ過程。

  過去記事で紹介した、暴落を取り入れた幾何ブラウン運動のシミュレーションをS&P500の2倍レバレッジに適用してみます。 2倍レバレッジは名著「ライフサイクル投資術」でも「レバレッ …

なぜリスクが大きいとトータルリターンが低下するのか?幾何ブラウン運動で定量的に説明する。

    株価の変動は幾何ブラウン運動でモデルできることがよく知られています。 幾何ブラウン運動はこのブログの記事で何回も出てきてますが、あえて基礎に立ち返ってみます。すると株価変動 …

S&P500の積立投資と一括投資のリスクを確率分布の形状から定量的に比較する。

  前回の記事の続きです。 オレンジ:一括投資で20年間放置したリターンの分布 青色:20年間定額つみたて投資したリターンの分布 積み立てケース (青色)の分布の広がりは一括ケース (オレン …

意思決定理論と不思議なサンクトペテルブルクのパラドックスを説明する。

  意思決定理論のにおける有名な問題の一つに、サンクトペテルブルグのパラドックスがあります。 数学者のダニエル・ベルヌーイがサンクトペテルブルグ科学アカデミーに滞在しているときに発案したので …

オルカンは本当にS&P500より分散されているのか? (米国指数 vs 米国除く全世界指数)

  オルカンはS&P500より本当に分散されているのか? 答えはYes。オルカンが米国含め全世界を対象としている以上、地域の観点では分散されています。 でも「ポートフォリオとして分散 …

 

都内在住JTC勤務の30代サラリーマンです。全資産の95%をインデックス投資で運用しています。2024年3月に1億円を突破。世界経済の継続的成長を願いS&P500とオルカンで運用中。NISAとiDeCoをフル活用。

お問い合わせは:こちら

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ