金融工学

S&P500投資の資産増加シミュレーションで暴落を取り入れるべきか?

投稿日:2021年8月22日 更新日:




 

私はS&P500をリターン7%・リスク20%で色々とシミュレーションしてます。

資産運用シミュレーションでよくある手法は、価格変動を幾何ブラウン運動でモデルして投資期間に対する平均値や中央値の変化を計算するというもの。以下は過去記事からの抜粋。

自分で言うのもなんですが、こういう資産推移のグラフは暴落を考えていない点で絵にかいた餅と言えなくもない。

だから証券会社のサイトで資産シミュレーションに年間積み立て額や想定年率リターンを打ち込んで計算しても、結果を冷めた目で見てしまう人も多いんじゃないでしょうか。

「ファイナンス理論全史」という本には次のように書いています。

長く投資を続けていれば、ブラックマンデーほどではないにしても、「正規分布では想定されない」はずの一大イベントに出くわす可能性はかなり高い。・・・

そうだとしたら、平穏な99%の世界でいかにうまくやろうとしても、異常な1%の事態で致命傷を負って元も子もなくなることがありうる。・・・

そう考えていくと、正規分布では想定できない異常事態は「無視してよいもの」では決してなく、むしろこれこそが投資における最重要テーマなのではないか、と思えてくるのである。

 

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S&P500の年率リターンを1928年~2020年まで集めてグラフにしたのが下のグラフです。青いのが実際のデータ。赤い線が正規分布でフィッティングしたもの。

いい具合に正規分布でフィッティングできていると思いますが、気になるのは大きなマイナスリターンが比較的高い頻度で発生している点。黒丸で囲った部分です。

年次リターンが-30%を下回る回数を計算してみると;

理論:0.08%

実際:3.78%

暴落確率は理論値よりもかなり高いのが分かります。ある年の暴落が資産推移に与える影響は大きいからこそ、上で引用したように、「異常事態は「無視してよいもの」では決してなく」と言えるのだと思います。

で、タイトルに書いたように「S&P500投資の資産増加シミュレーションで暴落を取り入れるべきか?」に答えると、「暴落を取り入れた方がより現実に近い結果になる」というのが答え。

じゃあどうやんの?という話なんですが、方法はあります。

それは価格の一方向への上昇とランダムな変動は(これまでやったように)幾何ブラウン運動でモデルし、突発的に生じる暴落の効果をポアソン分布でモデルして取り込むというやり方。

数式で言うと、下の右辺に「ジャンプ項」と呼ばれる暴落の効果を表す項を新たに加えます。(式は過去記事参照。)

この結果は、追って紹介していきます。

 

関連書籍:

 過去記事:

なぜリスクが大きいとトータルリターンが低下するのか?幾何ブラウン運動で定量的に説明する。

マートン・社畜の式 (S&P500の最適比率 = 1.75 / RRA)

S&P500の中央値はどう変化するか?幾何ブラウン運動による中央値の変化。

 

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執筆者:


  1. アバター eeyore より:

    いつも興味深い記事をどうもありがとうございます,とても勉強になります.
    前,ちょっと書きましたが,株価変動はコロナショックのように暴落と急騰(暴落後の急速な平均への回帰)があって,単純なブラウン運動(過去の記憶を持たない)ではないと考えています. 
    (1) この記事のとおり,正規分布での発生確率以上に暴落は多頻度で発生する. 
    (2) 暴落後には株価は通常変動率以上に上昇して急速に平均に回帰する(直近の暴落の記憶がある). 
    というふたつの挙動が存在していると思います.現実の暴落の発生確率が計算値よりもずっと高いにも関わらず,平均リターンが維持されているのは,(2)の効果があるからではないでしょうか.計算モデルに暴落効果を入れるなら,その後の急速な平均への回帰もある入れないとバランスが悪い(定常状態における平均リターンを大きく見積もり過ぎてしまう)ような気がします.株価変動には,(a)定常状態,(b)暴落,(c)暴落後の平均への回帰,3つがあって,この3つが合わさって平均リターンを構成しているので,(a)と(b)だけをモデルに入れて(c)を入れないと,平均リターンを合わせこむために,(a)のリターンを高く推定することになってしまう気がします.

    • chandra11 chandra11 より:

      コメントありがとうございます。回答させて頂きます。

      >株価変動には,(a)定常状態,(b)暴落,(c)暴落後の平均への回帰,3つがあって,この3つが合わさって平均リターンを構成しているので,(a)と(b)だけをモデルに入れて(c)を入れないと,平均リターンを合わせこむために,(a)のリターンを高く推定することになってしまう気がします.

      (a)と(b)のみを考慮してシミュレーションしようとしている理由は以下の通りです。
      (1) 記事で書きましたように年率リターン (日率や月率ではない)のヒストグラムを見れば(b)の暴落ケースが明らかに観察できる一方、(c)平均の回帰へのための大きなジャンプは目立つほど観測できない。
      (2) 幾何ブラウン運動で再現できないようなジャンプの効果の研究はすでに行われていて、例えば発案者のマートンや日本のGPIFも検証しています。その際に考慮しているのはやはり、暴落ケースのみです。
      (3) 平均への回帰を考慮するとモデルが複雑になります。例えばある年に50%暴落したとして、では回帰のために次年度のリターンは何%にするか?必ずプラスになる?その根拠は?というふうにです。あまりモデルを複雑にするともはやマニアの領域になるので、純粋に暴落の効果のみを取り入れたほうが現実的なアプローチと思います。(私の手に負えないという理由もあります。。。)
      (4) 暴落だけを考慮しておけば結果はコンサバ (=低リターンな確率分布を示す)な結果になるので、安全サイドの結果になると思います。

      (b)暴落のあとに(c)回帰の効果がどのように表れてくるかは興味がありますが、正直調べ切れていないです。何か書籍などあれば教えてください!
      私は一貫して年率で計算しているので、実は年率で見れば顕著に(c)が出てこないのかな?とも思います。

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