金融工学

「72の法則」をリスク資産に適用するのは正しいのか?リターンの確率分布の観点から検証。

投稿日:2021年5月16日 更新日:




 

資産運用するときに「72の法則」は元本を2倍にするための投資期間を計算できる法則です。以下は野村証券のサイトから引用。

金融商品に投資する際に、金利の複利効果により元本を2倍にする場合の投資期間を概算で求めるための法則のこと。

計算式:72÷金利(%)=投資期間(年数)

例えば、元本100万円を年利0.01%で運用した場合、倍の200万円にするのに約7200年(=72÷0.01)の投資期間がかかる。一方、年利3%で運用した場合には約24年(=72÷3)ですむ。

ポイントは「概算」であるという点。

ではなぜ概算と言わざるを得ないかというと、リスクを考慮していないからです。リスクとはリターンの平均値からどれだけ乖離しているか?ということ。

72の法則の根拠となる式はWikipediaに書いています。見て分かる通り計算式には投資期間と年利しか書いていません。

でも、ほとんどの金融商品はリスクありますよね ww

 

Sponsored Link



 

債券のような無リスク資産であればリスクはゼロです。だから「72の法則」で元本2倍にする投資期間を計算できます。

ではS&P500のようなリスク資産(リスク20%・リターン7%)に「72の法則」を適用するとどうなるか。リターン7%だから10年で2倍でしょうか?

これはミスリードなんです。リスクがある以上リターンは確率分布をとります。

だから「リターン年平均7%のS&P500はある確率で10年後に2倍になる。」と解釈すべきなんです。

百聞は一見に如かずなので、リスクないケースとリスクがあるケースのリターン確率分布を計算してみます。リターンは幾何ブラウン運動でモデルします。

(1) リターン7%・リスクなし

計算の便宜上リスクを0.05%とした結果です。10年後のリターンはほぼ2倍なのが分かります。数学的に言えばリターンの確率分布はデルタ関数です。

(2) リターン7%・リスク20%

リスクがあるとリターンの確率分布が時間と共に広がっていきます。10年後のカーブを見るとリターンが2倍以下にも分布が広がっています。だから「72の法則を適用すれば10年後に2倍になる」とは言えないんです。

これが「72の法則」をリスク資産に適用するのはミスリードだと思う理由です。

正しくは「リターン年平均7%のS&P500はある確率で10年後に2倍になる。」ですが、ではそれが何%なのかを別記事で検証します。

 

 

関連記事:

S&P500に「72の法則」を適用して「10年後に元本2倍」のウソを確率分布で説明する。

米国S&P500を平均リターン7%・リスク20%の幾何ブラウン運動でモデル化する理由

記事が役に立ったらクリックお願いします↓

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ

-金融工学

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

自分のリスク許容度を知るための相対的リスク回避度の計算方法を説明する。

  株などのリスク資産を持っているとき、自分のポートフォリオ全体でリスク資産を何%にすべきか? そう問われれば「自分のリスク許容度に見合った割合にすべき」というのが教科書的な回答。ではその割 …

株式に債券を混ぜて投資する具体的な方法

  S&P500やオルカンだけに投資する方法は楽チンですが、これだとリスクが高くて危ないという考え方もあります。ではリスクを下げるために債券をどう混ぜればよいのか? 私の考えはGPI …

S&P500の積立投資と一括投資のリスクを確率分布の形状から定量的に比較する。

  前回の記事の続きです。 オレンジ:一括投資で20年間放置したリターンの分布 青色:20年間定額つみたて投資したリターンの分布 積み立てケース (青色)の分布の広がりは一括ケース (オレン …

なぜリスクが大きいとトータルリターンが低下するのか?幾何ブラウン運動で定量的に説明する。

    株価の変動は幾何ブラウン運動でモデルできることがよく知られています。 幾何ブラウン運動はこのブログの記事で何回も出てきてますが、あえて基礎に立ち返ってみます。すると株価変動 …

S&P500投資でFIREするのにいくら必要かを破産確率で明らかにする。

  「S&P500に6000万円投資してFIREしたときの破産確率をシミュレーションした。」のシミュレーションで分かった結果は、次の通り。 仮に40歳でFIREするとして、6000万 …

都内在住の30代サラリーマンです。資産の95%をインデックス投資で運用しています。2024年3月に資産1億円を超えました。

このブログではインデックス投資の利点、運用シミュレーションや金融工学の記事を公開していきます。

趣味はミニベロ

お問い合わせは:こちら

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ