レビュー 金融工学

ブラック・ショールズ・モデルを一番分かりやすく書いた本を紹介する。

投稿日:2021年5月25日 更新日:




私が大学時代から愛読している本に長沼伸一郎氏の直観的方法シリーズがあります。

久しぶりに本棚から引っ張り出して「経済数学の直観的方法(確率・統計編)」を読んでいたんですが、唸りましたね。とにかく難しいことを分かりやすく解説するのがうまいんです。

大学で理系専攻だった方なら分かると思いますが、ファインマン物理学に似ていてそれよりもさらに易しい書き方です。

誤差の本質は2つの部分(「一定方向に出る誤差」と「+方向と-方向に同じだけ出る誤差」)で構成される話から、正規分布、中心極限定理、ブラウン運動、ブラック・ショールズ・モデルまで最短距離で解説しているんですね。

 

Sponsored Link



 

 

ブラック・ショールズ・モデルとはオプション価格を計算するための計算式。

「オプション」とは、ある資産を、あらかじめ決められた将来の一定期間に、事前に定めた価格で取引できる権利のこと。

本書でわかりやすい例があるので引用すると、

例えば航空機メーカーがパーツを1か月後に調達する際に、その価格がもし値上がりしていると生産計画が狂ってしまうため、前もって取引相手と交渉して「1か月後にパーツを1000円で購入する権利」を、なにがしかの金を払っておく、・・・

その権利が債券化されたものが市場に出回っているとしよう。つまりこれが「オプション」で、これを購入すれば誰でもその権利を得られるというわけだが、その権利を皆が欲しがってそれが誌上で取引されるようになると、これ自体がその際の需要と供給によって一種の市場価格を帯びてくる。・・・

つまり「ブラック・ショールズの公式」が具体的に求めているのは、・・・「権利=オプション」の値段なのであり、それを求めることに成功したことで、この理論は爆発的に金融の世界に浸透したのである。

 

この本の一番の醍醐味は、誤差やバラつきが「一定方向に出る誤差」と「+方向と-方向に同じだけ出る誤差」の2つで構成されるという原理が、ブラウン運動からブラック・ショールズ・モデルのアイディアまで、それらの根底で貫かれている点なんです。

金融の世界では、前者の一定方向に上昇して安定した収益が期待できる部分を「トレンド」、後者のランダムに上下する部分を「ボラテリティ」と呼んでいる。

その言葉を使ってもう一度整理しておくと、ブラック・ショールズ理論では前者の「トレンド」部分には頼らず、むしろ後者の「ボラテリティ」の幅が時間と共に拡大することを利用して、そこを絶対値ゲームとすることで、一定の利益を上げることを意図しているわけである。

ブラック・ショールズ理論を理解できたところで株で大儲けできるわけではないです。ですが、

株価などランダムな動きをするもはや手に負えないようなものを、そのランダム性を利益の確保といった目的達成に利用できるという点は、驚くべきことであるとともに、人間が不確実性に立ち向かうための知恵の結晶だと思うのです。

 

記事が役に立ったらクリックお願いします↓

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ

-レビュー, 金融工学

執筆者:


  1. アバター GG より:

    この話はもう少し深く聞いてみたいと思いました。。(ちな文系)

    • chandra11 chandra11 より:

      コメントありがとうございます。

      どのあたりを深堀してほしいかリクエストあれば教えて下さい。記事を書いてみたいと思います。

chandra11 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

なぜリスクが高いとリターンの中央値が下がるのか?を定量的に説明する。

    過去記事からの引用。 下のグラフは1年後のリターンの確率分布を示したもの。リスクを変化させていくと分布の計上がどう変わるかを示したものです。 グラフをみて分かる通り、リター …

資産運用で何に投資するかはIRR(内部収益率)を比較して決めるのが基本です

  十分な資金が手元にあって何か投資をしたいとき、何に投資をするべきか?それをどのように意思決定するべきか? 例えばある企業が太陽光発電事業に参入するとして2つのケースから選ぶ必要があるとし …

シャープレシオが最大になるのは効率的フロンティア曲線上の接点ポートフォリオ。

  前回の記事では、WealthNaviの資料をもとにエクセルのソルバーを使って効率的フロンティア曲線を作成しました。 効率的フロンティア曲線は、各リスクに対してリターンが最も高いポートフォ …

S&P500長期リターンの確率分布の変化を可視化する。

  S&P500指数がリスク20%・リターン7%の幾何ブラウン運動に従うと仮定、その際のリターンの確率分布を図示してみます。 幾何ブラウン運動の式は過去記事を参照。 下のグラフは20年間投資 …

S&P500 2倍レバレッジは暴落に弱いか定量的に分析する。幾何ブラウン運動+ジャンプ過程。

  過去記事で紹介した、暴落を取り入れた幾何ブラウン運動のシミュレーションをS&P500の2倍レバレッジに適用してみます。 2倍レバレッジは名著「ライフサイクル投資術」でも「レバレッ …

サラリーマンが全資産の95%をインデックスファンド(S&P500・オルカン)で運用中。2024年に億り人達成!ブログで様々な投資シミュレーションを紹介!

お問い合わせは:こちら

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ