金融工学

暴落を取り入れたS&P500投資シミュレーションの結果。幾何ブラウン運動+ジャンプ過程。

投稿日:2021年10月10日 更新日:




 

前回の記事で紹介したように、S&P500投資シミュレーションに暴落の効果を取り入れたシミュレーションをやってみます。

具体的には、基本的な株価変動モデルである幾何ブラウン運動に加えて、暴落がポアソン分布に従うと仮定したジャンプ過程を考慮したシミュレーションを行います。

このモデルに暴落の効果を取り入れた式は下のようになります。

以下は前提条件です。

年率平均リターン (μ):7%

リスク (σ):20%

期待暴落回数 (λ):0.1 (10年に1回暴落)

暴落の大きさ (ν):20%と50%

暴落の大きさの標準偏差 (ξ): 5%

投資期間: 20年間

計算は20万回行いました。

 

まずは10年に1回20%の暴落が発生するケースを見てみます。リターンの確率分布は下のようになりました。

ジャンプがある場合 (青色)はジャンプがない場合 (オレンジ色)に比べて確率分布全体が低リターン側に寄っていることが分かります。

これが両ケースの差 (黒色)を見れば分かりやすい。リターンが0.5倍以下だとプラスなので、ジャンプがない場合の方がリターンが半分になる確率が大きいということです。

リターン0.5倍以下の確率は、

ジャンプなし:3%

ジャンプあり:4%

つまりリターンが半分以下になるような極端な状況が発生しやすいということ。このように直観に合った結果が得られたわけですが、その差は1%なのでほとんどゴミだと思います。

というわけで、10年に1回20%暴落が起きても、暴落なしと結果はそれほど変わらないと言えます。

 

次に、10年に1回50%の暴落が発生するケースを見てみます。リターンの確率分布は下のようになりました。

ジャンプがある場合 (青色)はジャンプがない場合 (オレンジ色)に比べて確率分布全体が低リターン側に寄っていることが分かります。その傾向は上で見た20%暴落よりも強い。

リターン0.5倍以下の確率を見てみると:

ジャンプなし:3%

ジャンプあり:8%

加えてリターン1.0倍以下の確率 (元本割れ確率)を見てみると:

ジャンプなし:14%

ジャンプあり:18%

暴落ありケースでは元本割れ確率が4%上昇して18%であることが分かりました。

10年に1回50%暴落が起きると、元本割れ確率が4%上昇する。

補足で20年間の暴落回数をシミュレーションした結果を示します。

暴落回数はそれぞれ、暴落なし30%、1回暴落30%、2回暴落19%、3回暴落11%でした。

まとめると、

10年に1回、20%暴落発生:暴落なしとそれほど変わらない。

10年に1回、50%暴落発生:元本割れ確率が4%上昇。

もちろん投資終了間際の20年目に暴落した場合は資産は大きく減るわけですが、そういう奇跡的なケースを除けば、10年に1度の暴落は「暴落が起きるのが怖いから投資をやめる」というレベルではないと、個人的に感じます。

 

※シミュレーション結果のグラフをGPIFのポートフォリオで同様な検討をしている論文の結果と比較すると、グラフの形状は似ていることは確認済みです。

関連記事:

【暴落】S&P500投資の資産増加シミュレーションで暴落を取り入れるべきか?

なぜリスクが大きいとトータルリターンが低下するのか?幾何ブラウン運動で定量的に説明する。

記事が役に立ったらクリックお願いします↓

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ

-金融工学

執筆者:


  1. アバター full_kabu より:

    記事作成ありがとうございます!参考になります。
    ・以下の20%は、暴落の大きさですよね(50%も同様)。文脈からそのように読み取りました。
     >10年に1回確率20%で暴落:暴落なしとそれほど変わらない。
    ・「幾何ブラウン運動+ジャンプ項」で歴史上の株価推移は、概ね説明が付くものでしょうか。
     他に追加要因があれば、コメント頂ければ幸いです。どこまでやってもキリがないと思うのですが、
     感覚的にここまでやればOKというのがあれば、教えて下さい。

    • chandra11 chandra11 より:

      コメントありがとうございます。

      >・以下の20%は、暴落の大きさですよね(50%も同様)。文脈からそのように読み取りました。
      はい、その理解で正しいです。

      >・「幾何ブラウン運動+ジャンプ項」で歴史上の株価推移は、概ね説明が付くものでしょうか。
      過去の株価推移からリスク・リターン・ジャンプの頻度・大きさを推定し、モデルを立て、計算しています。
      従ってこのモデルを使えば過去の株価推移を高いか確率で再現できるとの理解です。

      >他に追加要因があれば、コメント頂ければ幸いです。
      「追加要因」とはどういう意味でしょうか?
      ジャンプ項以外で考慮すべき項があるか?という意味であれば、他にはないかと思います。

  2. アバター full_kabu より:

    「ジャンプ項以外で考慮すべき項があるか?」の意図でした。上記コメント、了解です!

  3. アバター dice play より:

    今回も興味深い分析をありがとうございました。

    この暴落モデルは、どれくれいのペース(日数)で株価が落っこちて、どれくらいのペースで回復する想定なのでしょうか。

    • chandra11 chandra11 より:

      年ごとに計算しています。日数では見ていません。
      たとえばある年に指数が100なら次の年に50に暴落するという考えかたです。
      暴落後は再びブラウン運動に従って動きます。つまりさらに下がる場合もあれば上がる場合もあります。

  4. アバター 通りすがり より:

    金融所得税増税あるみたいです
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA15DTT0V11C21A0000000/

full_kabu へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

インデックス投資やるなら知っておくべき | 現代ポートフォリオ理論を分かりやすく解説

  私が現代ポートフォリオ理論に興味を持ったのがインデックス投資を始めてしばらくしてからです。 インデックス投資を始める前に読んだいくつかの書籍には、「インデックス投資が最も効率的な投資であ …

なぜリスクが高いとリターンの中央値が下がるのか?を定量的に説明する。

    過去記事からの引用。 下のグラフは1年後のリターンの確率分布を示したもの。リスクを変化させていくと分布の計上がどう変わるかを示したものです。 グラフをみて分かる通り、リター …

合理的な投資家はリターンを高めるためにレバレッジをかける。現代ポートフォリオ理論の観点から。

  過去記事で解説したように、投資家のポートフォリオはリスク・リターン平面上で、無リスク資産と接点ポートフォリオを結んだ線上にあります。 接線のうち、無リスク資産と接点ポートフォリオの間のポ …

S&P500リターンの確率分布から分かるリターン5倍以上の確率。

  前記事からの続きです。 S&P500指数がリスク20%・リターン7%の幾何ブラウン運動に従うと仮定、その際のリターンの確率分布は下の通りです。 確率分布の形は分かったと。ではリターンが2 …

S&P500インデックス投資でFIREできるか?を破産確率で検証する。

  「S&P500インデックス投資でFIRE (早期退職)できるか?」は個人的にとても気になるテーマです。 「できる派」の唯一の定量的な根拠は有名な4%ルールですが、「4%ルール」は …

サラリーマンが全資産の95%をインデックスファンド(S&P500・オルカン)で運用中。2024年に億り人達成!ブログで様々な投資シミュレーションを紹介!

お問い合わせは:こちら

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ