金融工学

合理的な投資家はリターンを高めるためにレバレッジをかける。現代ポートフォリオ理論の観点から。

投稿日:2021年2月6日 更新日:




 

過去記事で解説したように、投資家のポートフォリオはリスク・リターン平面上で、無リスク資産と接点ポートフォリオを結んだ線上にあります。

接線のうち、無リスク資産と接点ポートフォリオの間のポートフォリオはレバレッジなし、接点ポートフォリオよりも右側の線上ではレバレッジあり。

 

引用: Leverage Aversion and Risk Parity

上の絵は「Leverage Aversion and Risk Parity」という論文からの引用ですが、この論文には実に面白いことが書いています。

現代ポートフォリオ理論に基づけば、市場ポートフォリオ (全ての株や債券を時価総額加重平均で組んだポートフォリオ)が接点ポートフォリオに一致するはずですが、実際はそうはなっていない。その理由は、投資家がレバレッジを回避する傾向にあるから、だそうです。

これはどういうことなのか?現代PF理論には、投資家は無リスク資産と接点ポートフォリオを結ぶ線(上図の実線)上のポートフォリオに投資する、という前提があります。なぜなら、この線上のポートフォリオはシャープレシオが最大になるため最も効率が高いからです。

もしも投資家が接点ポートフォリオのリターン(図では6%)では満足できないとします。この場合、合理的な投資家はレバレッジをかけて接線上のポートフォリオに投資しようとします。(しつこいけど、何故なら接線上のポートフォリオはシャープレシオが最大だから。)

 

Sponsored Link



 

ところが、実際は多くの投資家は接点ポートフォリオにレバレッジをかけるのが理論上は合理的であるにもかかわらず、その代わりに株の投資比率を上げるのです。

これだけだと意味不明なので下の図を参照。接点ポートフォリオのリターン6%に満足できない投資家は11%のリターンが欲しいとします。このとき投資家は理論上はレバレッジをかけて接線上のポートフォリオに投資すべきですが、そうはせずにレバレッジなしの株100%に投資しようとするのです。

見て分かる通りこの投資家は、レバレッジをかける代わりに株に投資することで、リスクが高まっていることが分かります。(13%→19%)

Sponsored Link



 

この論文曰く、投資家がレバレッジをかけずにわざわざ株を買うことによって、

株の価格が上がる→株のリターンが下がる、

債券の価格が下がる→債権のリターンが上がる、

これが、市場ポートフォリオが接点ポートフォリオに一致しない原因のひとつなのだそうです。

投資家がレバレッジをかけない理由は、(1) レバレッジをかけるのは危険だという思い込みがあるから (2) レバレッジをかける手段がないか、手段があってもコストが高いから が主な理由です。

それにしても、投資家がレバレッジを回避することが現実と理論が乖離する理由のひとつだというのはかなり意外でした。

 

関連記事:

シャープレシオが最大になるのは効率的フロンティア曲線上の接点ポートフォリオ。

なぜ全てのリスク資産の時価総額加重平均が最適なポートフォリオなのか?その理由と理論的背景。

 

記事が役に立ったらクリックお願いします↓

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ

-金融工学

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

S&P500で30年後に資産1億円を築く方法とその達成確率

  投資すると資産1億円がマイルストーンです。インデックス投資であれば、資産1億円を築く具体的な方法を計算で見積もれます。 インデックスファンドのリスク(価格変動)を無視すれば年利回りと年間 …

最適レバレッジと最適投資比率 (サミュエルソンの割合) との意外な関係を説明する。

  前回の続きです。 (1) 相対的リスク回避度 (RRA)を求める。 (2) RRAを公式に代入してサミュエルソン割合を求める。 (3) サミュエルソン割合をリスク資産の割合とする。 &n …

S&P500の積立投資でリターンの確率分布をどう計算するか?

  過去記事でS&P500のリターンの確率分布をグラフ化したものを紹介しました。 S&P500指数がリスク20%・リターン7%の幾何ブラウン運動に従うと仮定、その際のリターンの確率分 …

S&P500リターンの確率分布から分かるリターン5倍以上の確率。

  前記事からの続きです。 S&P500指数がリスク20%・リターン7%の幾何ブラウン運動に従うと仮定、その際のリターンの確率分布は下の通りです。 確率分布の形は分かったと。ではリターンが2 …

S&P500長期リターンの確率分布の変化を可視化する。

  S&P500指数がリスク20%・リターン7%の幾何ブラウン運動に従うと仮定、その際のリターンの確率分布を図示してみます。 幾何ブラウン運動の式は過去記事を参照。 下のグラフは20年間投資 …

 

都内在住JTC勤務の30代サラリーマンです。全資産の95%をインデックス投資で運用しています。2024年3月に1億円を突破。世界経済の継続的成長を願いS&P500とオルカンで運用中。NISAとiDeCoをフル活用。

お問い合わせは:こちら

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ