金融工学

なぜレバレッジをかけて高リターンを得るのは運ゲーなのかを幾何ブラウン運動で説明する。

投稿日:2021年8月13日 更新日:

 




 

前回の記事「なぜリスクが大きいとトータルリターンが低下するのか?幾何ブラウン運動で定量的に説明する」では、リスクがトータルリターンを下げる方向に寄与することを説明しました。

次はレバレッジのトータルリターンへの寄与をを見ていきます。

レバレッジを過度にかけるとリターンの中央値が低下することは過去記事で定量的に検証済みです。その理由は「高リターンを得る確率が低いから」なのですが、「なぜそうなるのか?」を基礎に立ち返って掘り下げます。

株価が幾何ブラウン運動に従うとき、下の確率微分方程式で記述できます。

レバレッジなしの式との対応関係から、リターン(μ)とリスク(σ)がL倍になっていることが分かります。上の確率微分方程式を解いたのが以下の式。

左辺について。Stは時刻tの株価でS0は時刻0の株価。従って左辺は、時刻tのリターンの対数だとわかります。

次に右辺を見ていきます。右辺の括弧をばらして書き直します。

(1) 第一項は(レバレッジ)x(リターン)x(時間)

プラスの項です。従って、リターンが大きいほど、そして投資期間が長いほど、右辺は大きくなります。

(2) 第二項は0.5x (レバレッジの2乗)x(リスクの2乗)x(時間)

マイナスの項です。従って、リスクが大きいほど、そして投資期間が長い程、右辺は小さくなります。

(3) 第三項はウィーナー過程にリスクとレバレッジを乗じたもの。

ウィーナー過程は平均0・分散tの正規分布に従います。つまりこの項はランダムな値をとりますが、その値の取り方は標準正規分布に従います。例えばt=1だと68%の確率で、-Lσ~+Lσの間の値をとることになります。まとめると右辺は大きくもなるし小さくもなる。

 

この部分の考え方は過去記事のレバなしのケースで書きました。(2)はマイナスの項であるがゆえにリスクが大きければ大きいほど、リターンを引き下げる傾向にあるということ。例え(3)のランダム項がプラスになったとしても、(2)の引き下げ効果によってリターンは低下しやすくなる。

ただレバなしケースとの違いは、(2)にレバレッジの2乗が含まれているという点です。レバレッジは1より大きいため、レバレッジを2乗したら必ず増加します。

つまりレバレッジを大きくするほど、(2)のマイナス効果は2乗で増幅されます。

確かに(3)にもLが含まれているので、ランダムに高いリターンが得られる可能性はあります。ただし、(2)のマイナス効果がLの2乗であることを考えると、(2)の効果が勝りやすくなると思います。

 

ここで数値のオーダー(大きさの程度)を見てみます。

例えばS&P500 (リスク20%・リターン7%)、投資期間は20年、レバレッジ3倍とします。

(1)第1項:3 x0.07 x20=4.2

(2)第2項:0.5 x3 x3 x0.2 x0.2 x20=3.6

(3)第3項:34%の確率で0~+2.7、34%の確率で-2.7~0 (*)

(*)(3)の値は(平均0・分散tの正規分布)xLσに従うので68%の確率で-2.7~+2.7の間の値をとります。

リスクが関係する項の(2)と(3)だけに着目すると、その項の合計は、

34%の確率で-3.6~-0.9、34%の確率で-6.3~-3.6。つまり(2)+(3)はマイナスになってしまいました。(言い換えると、この項は少なくとも68%の確率でマイナスになる。)

ただしリターンは(1)~(3)の総合なので全部足すと、右辺の和は68%の確率で-2.1~+3.3。

せっかくレバレッジをかけて(1)で大きなリターンを得たのに、(2)の影響がかなり大きいためリターンが大きく引き下げられていることが分かります。(1)+(2)で+0.6しかないです。リターンをさらに上げるにはランダム項の(3)がプラスになる必要がありますが、これは運ゲー要素が高いです。

まとめると、

(1)によって高リターンを得る確率は高まるが、

(2)は大きなリターン引き下げ効果を発揮する。

最終的に高リターンをたたき出すには(3)がプラスになる必要があるが、これは運ゲー。

ここまで見れば、レバレッジかければ「確実に高リターンを得られる」がウソだとはっきり分かるでしょう。

ちなみに、諸悪の根源である(2)のマイナス効果を打ち消す方法があります。それが最適レバレッジ比率です。それは次の記事で説明します。

 

関連記事:

なぜリスクが大きいとトータルリターンが低下するのか?幾何ブラウン運動で定量的に説明する。

【衝撃】レバレッジはリターンの中央値を下げる。3倍レバレッジが危険な理由を定量的に説明。

【SPXL】S&P500に3倍レバレッジをかけて中央値が下がることが問題なのか?の定量的な説明

 

Twitterでブログ記事の更新通知を受け取れます:

 

記事が役に立ったらクリックお願いします↓

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ

-金融工学

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

積立投資の意外な盲点。投資期間後半で投資した分は元本割れ確率が高い。

  以前の記事でサラリーマンが株式投資するなら、一括投資よりも積立投資にならざるを得ないという話をしました。理由は簡単で会社から受け取る給料の中から投資資金を捻出するのだから、毎月数万円、ま …

なぜリスクが高いとリターンの中央値が下がるのか?を定量的に説明する。

    過去記事からの引用。 下のグラフは1年後のリターンの確率分布を示したもの。リスクを変化させていくと分布の計上がどう変わるかを示したものです。 グラフをみて分かる通り、リター …

マートン・社畜の式 (S&P500の最適比率 = 1.75 / RRA)を説明する。

  過去記事でマートンのポートフォリオ問題と最適レバレッジ比率の関係について紹介しましたが、名前を付けておこうと思います ww この式は結構使えると思うし、今後も色々と引用するときに名前ある …

最適レバレッジと最適投資比率 (サミュエルソンの割合) との意外な関係を説明する。

  前回の続きです。 (1) 相対的リスク回避度 (RRA)を求める。 (2) RRAを公式に代入してサミュエルソン割合を求める。 (3) サミュエルソン割合をリスク資産の割合とする。 &n …

高配当株かグロース株どちらに投資するかはIRRを比較するべし。

  読者様から質問を頂きました。どうもありがとうございます。 高配当銘柄に投資するか成長が見込めるグロース株に投資するか、どちらが大きなリターンを得ることができるとお考えでしょうか?理由も教 …

 

都内在住の30代サラリーマンです。全資産の95%をインデックス投資で運用しています。2024年3月に1億円を突破。S&P500とオルカンで運用中。NISAとiDeCoをフル活用。

お問い合わせは:こちら

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ