「その金融商品に投資するのはリスクが大きいのでやめたほうがいい」と聞くと、「この商品は損しやすいのか」と解釈してしまいやすい。しかしながら「リスク=損しやすさ」という考えは正しくありません。
リスクとは一般的に「不確実性」という意味です。ISO9001という品質マネジメントシステムの国際規格がリスクについて分かりやすい定義をしています。それによるとリスクとは「期待されていることから、好ましい方向又は好ましくない方向に乖離すること」です。
これを金融商品のリターン分析に適用すればこう考えることができます。リスクが小さいとは期待するリターンを超える確率とリターンを下回る確率が共に小さい。逆にリスクが大きいとは、期待するリターンを超える確率も下回る確率も大きい。
ポイントはリスクが大きいと損しやすくなるだけではなく、リターンも大きくなるということでしょう。だから「リスク=損しやすさ」は成立しないというわけです。
言葉で書くよりもリスクの大きさを正規分布でとらえる方が分かりやすい。金融工学では正規分布の標準偏差(広がり幅)をリスクと定義して議論を展開するからです。
下の2つのグラフは異なる2つのリスクをもつ正規分布です。平均リターンは0%、リスクはそれぞれ5% (上)と20% (下)です。
リスクが小さいと分布の幅が狭い。幅が狭いと言うことは平均リターンから乖離するリターンの出現確率が小さいということです。極端な例としてリスクがゼロということは、幅がゼロ(数学的にはデルタ関数と呼ぶ)なので、100%の確率で平均リターンを得る。
逆にリスクが大きいと分布の幅が広い。幅が広いと言うことは平均リターンから乖離するリターンの出現確率が大きいということです。
グラフを見れば冒頭の「リスク=損しやすさ、は正しくない」というのが分かるでしょう。なぜなら、リスクが5%、20%どちらの場合でも損する=元本割れする確率は共に50%だからです。
それでは「損しやすさ」とは一体どのように見積もるのか?それを示したのが下の図です。損しやすさ、つまり元本割れする確率は正規分布のリターンがゼロ以下になる部分の面積と等しくなるのです。
この面積はどんなときに大きくなるか?それは正規分布全体が左(リターンが低い方)に寄っていて、かつ幅が広い場合でしょう。言い換えれば平均リターンが小さくてリスクが大きい場合に元本割れする確率が大きい。逆に平均リターンが大きくてリスクが小さい場合には元本割れ確率が小さくなる。
つまり、損しやすさは平均リターンとリスクの組み合わせによって決まるということです。もう少し正確にいうと、平均リターンとリスクは時間とともに変化するので、損しやすさは平均リターン、リスク、投資期間の組み合わせで決まるといえるでしょう。
まとめると、こういうこと。
損しやすさを決めるのは:
× リスク
〇 リスク、平均リターン、投資期間の組み合わせ
補足すると、リスクのうち期待しているよりも望ましい方向に物事が進むこと(プラスのリスク)を好機と呼びます。リスクが大きな金融商品に投資して高リターンを得る行為とは、好機を利用して高いリターンを得ることだと解釈できます。
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