久しぶりに本棚から引っ張り出して「経済数学の直観的方法(確率・統計編)」を読んでいたんですが、唸りましたね。とにかく難しいことを分かりやすく解説するのがうまいんです。
大学で理系専攻だった方なら分かると思いますが、ファインマン物理学に似ていてそれよりもさらに易しい書き方です。
経済数学の直観的方法 確率・統計編 (ブルーバックス) [ 長沼 伸一郎 ]
誤差の本質は2つの部分(「一定方向に出る誤差」と「+方向と-方向に同じだけ出る誤差」)で構成される話から、正規分布、中心極限定理、ブラウン運動、ブラック・ショールズ・モデルまで最短距離で解説しているんですね。
ブラック・ショールズ・モデルとはオプション価格を計算するための計算式。
「オプション」とは、ある資産を、あらかじめ決められた将来の一定期間に、事前に定めた価格で取引できる権利のこと。
本書でわかりやすい例があるので引用すると、
例えば航空機メーカーがパーツを1か月後に調達する際に、その価格がもし値上がりしていると生産計画が狂ってしまうため、前もって取引相手と交渉して「1か月後にパーツを1000円で購入する権利」を、なにがしかの金を払っておく、・・・
その権利が債券化されたものが市場に出回っているとしよう。つまりこれが「オプション」で、これを購入すれば誰でもその権利を得られるというわけだが、その権利を皆が欲しがってそれが誌上で取引されるようになると、これ自体がその際の需要と供給によって一種の市場価格を帯びてくる。・・・
つまり「ブラック・ショールズの公式」が具体的に求めているのは、・・・「権利=オプション」の値段なのであり、それを求めることに成功したことで、この理論は爆発的に金融の世界に浸透したのである。
この本の一番の醍醐味は、誤差やバラつきが「一定方向に出る誤差」と「+方向と-方向に同じだけ出る誤差」の2つで構成されるという原理が、ブラウン運動からブラック・ショールズ・モデルのアイディアまで、それらの根底で貫かれている点なんです。
金融の世界では、前者の一定方向に上昇して安定した収益が期待できる部分を「トレンド」、後者のランダムに上下する部分を「ボラテリティ」と呼んでいる。
その言葉を使ってもう一度整理しておくと、ブラック・ショールズ理論では前者の「トレンド」部分には頼らず、むしろ後者の「ボラテリティ」の幅が時間と共に拡大することを利用して、そこを絶対値ゲームとすることで、一定の利益を上げることを意図しているわけである。
ブラック・ショールズ理論を理解できたところで株で大儲けできるわけではないです。ですが、
株価などランダムな動きをするもはや手に負えないようなものを、そのランダム性を利益の確保といった目的達成に利用できるという点は、驚くべきことであるとともに、人間が不確実性に立ち向かうための知恵の結晶だと思うのです。
経済数学の直観的方法 確率・統計編 (ブルーバックス) [ 長沼 伸一郎 ]
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