コロナウイルス感染がおさまったあとも在宅勤務の普及が進むという論調を見かけます。私は普及が「大きく」進むと思いません。よくて「微増」ぐらいだと思ってます。
Business Journalに興味深い記事が出ています。「在宅勤務 “先進国”の米国、すでにリモワ廃止&オフィス勤務義務化へ回帰という現実」というタイトル。
リモートワークの先駆者ともいえるIBMは、2017年5月にリモートワークの廃止を発表し、数千人もの在宅勤務の従業員に、「オフィス勤務か退職か」をつきつけた。同様に、アップル、グーグル、フェイスブックも、リモートワークを勧めてはいない。むしろ、労働環境を快適にしてオフィスを魅力的にすることによって、社員にオフィスで働くメリットをアピールしている。また、IBMと同じく、かつてリモートワークを積極的に実施してきた米ヤフーも、勤怠管理がうまくいかなかったため2013年にリモートワークを廃止している。
リモートワークは、個人で自己完結する仕事を行う上では効率的であり、向いている。しかし、他者と強調しつつチームで働くということには向いていない。IBMが従業員をオフィス勤務に戻した理由は、社員間のコミュニケーション不足と言われている。特に、イノベーションを起こすためには、社員間の密なコミュニケーションや信頼関係が大切だ。そのためにはオフィス勤務で日々の何気ない会話や気遣いなど、顔を合わせて仕事をすることが必要と判断したと考えられる。
私個人の経験も踏まえて言うと、記事にも書いている通りリモートワークは「個人で自己完結できる仕事」をする上ではメチャクチャ効率的です。例えば、上司がある指示書を作成したとして、その指示書通りに作業をして、上司に成果物をメールで送る。単純なデータ入力とか、文書作成とかが該当しますね。
ところが「チームで協調しながらやる仕事」の場合は極端に効率が下がります。ここで「チームでやる仕事」とは、たとえ各メンバーの役割を切り分けたとしても、下の要素が入るために密なコミュニケーションが必要になるような仕事です。
(1) 作業内容が高度(各メンバーが知恵を出し合いながら進めていく必要がある)
(2) 外部要因によって作業内容が不確定で変更が多く発生する
(3) 各メンバーの作業が相互作用的(あるメンバーの作業の結果が他のメンバーの作業内容に影響する)
チームのメンバーがお互いを良く知っていて、自分の役務をよく理解し、仕事を進めるルールを理解できている場合は、(1)~(3)の要素が入ったとしても、テレワークで対応することは不可能ではありません。ただし、この理想的な状態がずーっと続くわけではありません。案件が変わるごとに新しいメンバーと仕事し、案件固有の要求によって(1)~(3)が発生するからです。
あとは顧客と密にコミュニケーションを図る必要がある場合も在宅勤務は難しいでしょう。対面のコミュニケーションは古いなどと言われますが、私はそうは思いません。顧が本当に「何が一番欲しいか、何に一番困っているか」というのは、対面で話さないと本当に感じ取れないもんです。お得意さんの顧客でなくて新規の顧客ならなおさらです。
「在宅勤務がイイ!」「出勤は時代遅れ」という考え方は危ない。在宅勤務でできる仕事って実は単純作業で大して付加価値がない、ぐらいに考えておいた方がいいでしょう。なぜならば、(ハンコ押すためとかそういう理由は除いて)会社でメンバーが机を並べて仕事をするのには上に挙げたような業務の複雑さをクリアするためであって、こういう複雑な業務をこなすことが付加価値を上げることにつながるからです。ただし、複雑な業務を単純にするための努力(変更を発生させない仕組み、無駄の削除、ITツールによる自動化)が必要なのは言うまでもないでしょう。