米国株式指数S&P500のリスクは16%、リターンは7%と聞いて何を思うか。細かい数字はさておき、過去の株式指数のリスクとリターンの値を聞いたとき、これを鵜呑みにして将来の指数の動きの予測に適用していいのか?と思うのです。
今後もリターン7%とかウソ臭くない?ってことです。
1957年から2019年までのS&P500指数を用いてリスクとリターンを計算しました。結果は年平均リターンが7%、リスクは16.3%。
年平均リターンが7%はともかくリスクが16.3%というのが分かりにくい。こういう時はリターンが同じでリスクが0%の場合と比べたらどうなるかを比較してみると分かりやすい。というわけでS&P500をリターン7%・リスク0%の仮想の指数と比較してみましょう。
S&P500はリスク16.3%なのでリターンが7%の周りで激しく変化します。リスクとは結局このバラツキのことを意味しているのです。一方で、仮想指数の方はリスク0%なのでリターン7%で一定です。
実際の指数の動きは次の通り。S&P500はリスク=バラツキが大きいので指数もギザギザに動く。一方でリスクゼロの仮想指数はバラツキがゼロなので、よく見る複利の曲線のように美しい単調曲線を描く。
で、結局リスクが16.3%というのは定量的に何を意味しているんだ?というのが次の図。リターン7%でリスク16.3%というのは、リターンが-1.1%と15.1%の間に入る可能性が68%と言う意味なんですよ。
ホント?「可能性が68%ってどういう意味?嘘くさくないか ww」
少し視点を改めて正規分布をおさらいしてみます。正規分布は上のような釣り鐘の形をした関数。例えばボールを前の壁に真っすぐ投げるのを1億回繰り返して、ボールが当たった位置とその回数をヒストグラムにすれば正規分布のような形になります。プロの投手なら精度が高いのでバラツキが小さい。一方で素人は精度が低いのでバラツキが大きい。
ここでバラツキが大きい素人の投手のリスクが16.3だとしましょう。そうすると素人が投げた球の位置は1億回中6800万回が釣り鐘の真ん中の部分のまわりの16.3のレンジに入るということ。イメージは下の図。
ここで重要なのは球を1億回も投げているということ。正規分布の特徴であるリスクとリターンを使う上で重要なのは母数の多さです。母数が多ければ多いほど正規分布の考え方を適用することが有効になる。今回の場合は1億回という莫大な回数を投げて得たデータだから、次に球を投げたときにレンジ16.3に入る可能性は68%だと言える。言い方を変えると、球をたった60回投げた程度では、次に球を投げて68%でレンジ16.3に入るとは言い切れない。
話を戻すとS&P500のリスク16.3%、リターン7%というのも過去たった60年で得たデータ。つまり球を60回投げたのと同じ。母数が少ないデータを無理矢理正規分布で近似して、今後のS&P500はリターンが7%でしかも-1.1%と15.1%の間に入る可能性が68%もある!というのはいかがなものか。
つまり言いたいことは「米国株式指数S&P500のリスクは16%、リターンは7%」を完全に信用するには母数が少なすぎるということ。期間を変えればリスクもリターンも簡単に変わります。
他の指数と過去の実績を比較するうえではリスク・リターンは有効でしょう。定量的な比較ができるからです。またS&P500に投資するときの複利効果の説明にも使えます。「S&P500なら年利7%が見込める」って書くだけで私含めて多くの人が心動くので ww
数字の計算には前提条件があります。結果だけを見るのではなく「過去60年のデータを正規分布に当てはめた結果、リスクとリターンはそれぞれ16%、7%だった。ちなみに正規分布は母数がデカいほど有効」ということは忘れてはいけないと思うのです。
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