昨年読んで一番面白かったのが「2030 半導体の地政学」。はい、文句なしで面白かった。ダントツで一番です。
半導体は工業製品であると同時に。政治的にユニークな特性がある。経済を支える柱となるだけでなく、敵対する国を追い詰める武器として使われることもある・・・
半導体がなければ人々の生活は成り立たない。人々の生活は成り立たない・・・インフラであるならば、そのサプライチェーンを攻略することで、敵対する国の社会を崩壊させることもできる。核兵器やミサイルだけでなく、半導体の供給を断つ方が、攻撃手段として有効であるかもしれない。
半導体を制するものが世界を制するー。
国家の戦略物資となった半導体。半導体といっても、最終製品であるチップが出来上がるためには多くの工程を経る必要があります。要素回路ライセンス、設計ソフト、半導体製造装置、原料 (ウエハー類)、ファウンドリー、後工程。
自国内で半導体のサプライチェーンを完成させるためには、各領域を全て国内で完成させる必要があるわけで、アメリカがなんとしても欲しいのがTSMCの工場。
TSMCは、半導体製造を担うファウンドリー業界でサムスンを突き放して、世界シェア約60%。営業利益率は約40%。微細化技術の最先端を行き、儲けた金は設備投資、貪欲に工場を作っていく・・・。本書の言葉を引用すれば怪物企業。
TSMCが半導体製造プロセスを極めた企業なら、半導体製造装置で先端を行くのがオランダのASML。数ナノメートルの微細加工ができるのはASMLの露光技術のみ。欧州ではASMLこそがサプライチェーンの急所となる最重要企業。
欧州の最重要企業のもう1社がアーム。要素回路のライセンスを握る企業で、クアルコムやエヌビディアはアームのライセンスを用いてチップを設計。エヌビディアのアーム買収は英国政府からストップをかけられているが、買収が実現すれば、米国は最上流のチップ設計まで手に入る。回路ライセンスからファウンドリーまで、これまで米国に足りなかった工程が、パズルのピースを埋めるように完成されていく、という構図です。
5G機器で世界シェアNo.1は中国のファーウェイ。ファーウェイを支えるのはチップ設計に特化したハイシリコン。技術では世界トップレベル。しかし、ハイシリコンが設計したチップを作れるのは、怪物企業TSMCしかいない・・・。米国の輸出規制で、米国製機器でチップを生産するTSMCは、ファーウェイにチップを供給できなくなった。著者はファーウェイへのインタビューも行っているが、ファーウェイは日本が経験した日米貿易摩擦、日米半導体協定の分析のもと、輸出規制に対しては諦めるしかない、と腹を括ったそうです。
本書を読んで感じたのは、
(1) 半導体はもはや、ただの部品ではなく国家の戦略物資となったこと
(2) 設計・装置・製造、各分野で特化した企業が世界に限られる。そのため、それらの企業の誘致をめぐって主要国が奪い合いを繰り広げていること
(3) 製造装置が高価なため、生産工場には1兆円にも達する莫大な投資が必要。TSMCやサムスンのようなトップ企業だけが設備投資を繰り返せる、Winner takes allな構造になっている。この様子だと他の企業はもはや追いつけない。
地政学という観点で見れば本書はバツグンにおもしろいです。ただ、個人的にはTSMCがどうやって誰も作れない物を作ってしまうのか、その力の源泉をもっと知りたいなと思いました。
本書以外にもTSMCの凄さが紹介されている本をいくつか紹介します。
アジアのビジネスモデル
独自のビジネスモデルで驀進するアジアのビジネスモデル紹介する本。一番初めに紹介されるのがTSMC。
アジアのビジネスモデル 新たな世界標準【電子書籍】[ 村山 宏 ]
日本半導体 復権への道
半導体需要はスマホからロボティクスへ。
記事が役に立ったらクリックお願いします↓