社畜

社畜誕生 | 左翼活動家にデモに連れていかれた話(後編)

投稿日:2020年2月25日 更新日:




 

前編からの続きです。

 

A氏から集会参加の勧誘を受けてから2週間後、私は待ち合わせの場所に向かった。東京の集会に参加する者はA氏と私の他にもたくさんいて、皆で夜行バスを貸し切って東京に向かうのだった。

待ち合わせ場所にいたのは全員男で15人くらいいいた。そのうち半分が私と同じ大学の学生で、残りの半分は他の大学の学生だった。皆は全員知り合いのようで、私以外は「よー」とか「久しぶり」とか会話を交わしている。みな見た目は大人しそうでオタクっぽい服装でデカいリュックを背負っていた。A氏は私のことを全員に紹介してくれた。知り合いは一人もいなかったが、「うーっす、よろしくー」と声をかけてくれたので歓迎されていないわけではなさそうだった。

夜行バスは東京へ出発し、翌朝早朝に新宿に到着した。ちなみに私が東京に来たのは生まれて初めてだった。初めての上京が左翼の集会への参加とは、なんという運命なんだろうと少し悲しくなったが、自分で選んだことなので仕方がない。田舎者の私にとって東京の高層ビルは圧倒的だった。A氏に初めて東京に来たことを告げると、A氏は「ここは資本主義のブタ共の巣窟だ、この高層ビル群も労働者を搾取して建てたんだ。」と吐き捨てた。そして東京都庁ビルの前に立つと、その当時の都知事を罵倒する奇声をあげはじめた。

集会は都内有数の大規模な公園で開かれた。入り口には身分をチェックする人がいて、我々が●●大学の学生だと告げると中に入れてくれた。そこにはさまざまな団体がすでに到着していてカオスだった。私が目を丸くしているとA氏は各団体を説明してくれた。

A氏「あの団体は国鉄が民営化されたときに職を失った労働系の団体だ。今でもJRと戦っている。あそこにいるのは派遣切りされた若者を支援するNPO団体。あそこで民族衣装を着ているのは在日韓国人の団体。あそこは●●という部落出身の人たちで部落差別反対を唱える団体。あれは〇〇大学の××派の団体でウチと同じセクト。」

私「すごいですね。どれくらいの人がいるんですか?」

A氏「今日は3000人くらいが集まる予定さ。そして各団体のリーダーが団体の近況をスピーチするんだ。ところで、スパイがいるから知らない人から何か聞かれても我々のことをペラペラ話さないように気を付けるように。」

私「スパイ?」

A氏「公安だよ。私服の公安が集会に混じって色々嗅ぎまわるんだ。」

私「・・・」

 

そして集会が始まった。各団体のリーダーが演壇に立ってスピーチをする。あまりにもたくさんの団体がいて内容をあまり覚えていないのだが、そこで感じたのは皆スピーチが上手いということ。特に派遣切りされて職を失った20代前半の若者のスピーチは鬼気迫るものがあった。会社から長時間こき使われ、わずかの給料しか払われず、徹夜続きで体調を壊して数日休んだ翌日には解雇されたという内容を涙ながらに説き、社会に呪詛の言葉を吐き、資本主義の打倒と共産主義社会の到来を渇望する彼の眼は血走っていた。彼が今の社会が腐っていると吐き捨てると、会場から拍手喝さいが湧く。彼が労働者の権利を謳うと、会場から「オー!」と雄たけびが上がる。

派遣切りされた彼以外にも、出生を理由に差別を受けた人々や会社から理不尽に解雇された人々が演壇で社会を呪うたびに会場から雄たけびが上がり、応援の声が上がる。時間が経つにつれて会場はますます盛り上がる。各団体がスピーチを一通り終えた後、最後は全員で肩を組んで旧ソ連の国歌「インターナショナル」を歌った。

立ち上がれ、呪詛により烙印を押され

飢えたる者と労働者の全世界よ

我等の怒りたる理性は沸き立ち

そして死闘を呼ぶ準備はできている

我々は抑圧の世界を全て

根底に至るまで破壊し、そして

我々の新たな世界を建設するのだ

何者でもなかった者達が全てへと変わるのだ

これは我等の最後の決戦だ

インターナショナルと共に

人類は立ち上がるのだ

これは我等の最後の決戦だ

インターナショナルと共に

人類は立ち上がるのだ

 

私は恍惚を覚えていた。見知らぬオッサンと肩を組んで「インターナショナル!」と叫ぶことに何も恥じらいはなかった。私には政治思想はなかった。もちろん共産主義者ではない。でも、そんなことはどうでもよかった。ただインターナショナルの壮大なメロディーと威厳ある歌詞に感動していた。そして全世界の労働者とつながっているという連帯感と、平凡な私でも立ち上がれば世界を変えることが出来るという根拠なき自信がみなぎり、知らぬ間に頬を涙が伝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい!それでは今からデモしま~す!」

恍惚に浸っていた私は、その言葉で我にかえった。「デモ?」

横を見るとオッサンが白い小さな紙を皆に配っていた。紙には小さな字でこう書いていた。

「逮捕されたら黙秘を貫いて下記の弁護士事務所に電話してください」

 

逮捕?弁護士?なんだこれは?焦った私は周りを見回してA氏を探した。A氏がいたのでこの紙は何かと問いただすとA氏は平然と答えた。

A氏「これね。弁護士の電話番号だよ。デモするとよく警察に公務執行妨害で捕まるんだよね。だからもし捕まったら黙秘を貫くように。絶対に何も話したらダメだから、」

私「いや、そもそもデモすることすら聞いてなかったんですけど。集会としか・・・」

A氏「あれ言ってなかったっけ?まあ歩くだけだから大丈夫でしょ」

そう言いながらA氏はリュックからヘルメットとサングラスとマスクを取り出して装着しはじめた。とく見ると私以外のほぼ全員も装着している。

私「それ、何ですか・・・」

A氏「三種の神器だよ」

私「は?」

A氏「ヘルメット・サングラス・マスクはデモのことだよ。デモ中は警察にビデオ取られることがあるからね。こうやって顔を隠すんだよ。」

そんなことは始めて聞いた。だからみなデカいリュックを背負ってきたのか。

私「来る前に行ってくださいよ。何も持ってきていまんよ!」

A氏「それはマズいな。じゃあプラカード渡すからこれを掲げて歩いて顔を隠そう」

A氏から渡されたプラカードには汚い字で「〇〇政権打倒」と書かれていた。マジか・・・こんなもの掲げて歩くとか恥ずかしすぎんだろ・・・文句を言ってられないので私は素直に従うことにした。

そしてデモは開始された。およそ2kmを2時間かけて歩いたと思う。ちなみにデモをするときは事前に警察に届け出るそうだ。そうするとで車道の片側が封鎖されてそこをデモ隊が歩くことができる。車道の真ん中には警察がズラーッと並んで、さながら壁のようだ。こうすることでデモ隊が反対側車線にはみださないようにするのだ。

デモでは一番武闘派な人間が一番前方で歩いて歌ったり雄たけびを上げたりする。中には車道に立っている警察官にわざと肩をぶつけて挑発したりする人もいるのだ。そんなことをすると警察も黙ってはいないので公務執行妨害でその武闘派を捕獲しようとする。そうするとデモメンバーは仲間が逮捕されないようにその武闘派を引っ張って取り戻そうとして、警察で軽い小競り合いになるのだ。もちろん私は武闘派ではない(というか思想もない)ので、小競り合いにはかかわらないようにプラカードで顔を隠すことに徹した。

デモ隊の一員として歩くと、いつもと全く違う風景が見える。大都会のど真ん中を大の大人たちがハッピを着たり幟を立てて「資本主義打倒!」とか「資本家はゴミ箱いきだ!」とか叫んで歩くのだ。「何アレ?キモイ」という冷たい目でこちらを見るギャルもいれば「頑張れよ!」と声をかけるオッサンもいる。警察はこちらを睨めつけるように見つめ、黒塗りの車の右翼団体が拡声器で「国賊ども!」と罵倒する。そんな非日常的な空間で私は知らぬ間に興奮していた。初めは冷めた目で隣のオッサンたちを見ていた。でもいつしか声を上げていた。周りに同調していたのだ。私のちょうど前には演壇で熱弁をふるった派遣切りされた若者が声をガラガラにして叫んでいた。そんな彼を見て、私もそうしなければいけないと感じたのだ。ここにいる以上、声を上げなければいけないのだと。繰り返すが私は共産主義者ではない。私がデモ隊と一体化したのはやはり非日常的な空間がそうさせていたのだと思う。

そしてデモは終了した。逮捕者はいないと聞いた。帰りのバスでA氏は私に感想を求めた。私は「デモに参加することで労働者の権利について深く考える機会ができた」と無難なことを言った。A氏は満足げに頷いた。

A氏はその後も何度か別の集会やデモに勧誘してきたが、私は全て断った。デモに1回参加することで社会から搾取される人間がいることは理解できたが、デモをしたところで社会が変わるとは到底思えなかったからだ。それよりも私にとっては迫りくる就職活動の方が重要だったのだ。そのうちA氏からの勧誘はピタリとやみ、彼を学内で見かけることはなかった。噂では何かのデモに参加した際に公務執行妨害で逮捕されたと聞いたが、定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年後、

 

 

 

私は都内の某企業で最終面接を受けていた。面接官は役員だった。

役員は私に「あなたは何のために仕事をするのですか?」と質問した。

私はこう聞かれた時、ビンゴ!と思った。こう聞かれることは予想していたのであらかじめ回答を暗記しておいたのだ。

「金とやりがい、両方のために仕事をします。金だけ多くもらえてやりがいがなければ長続きしません。モチベーションがわかないからです。逆に金が少なくてやりがいだけでも長続きしません。食っていけないからです。」

役員は「なるほどね」と呟いた。

役員が手元の紙に何かを書き込んでいる間に、私はふとA氏のことを思い出した。涙を流して熱弁を奮った派遣切りの若者や、肩を組んでインターナショナルを熱唱したオッサンのことも。そして、デモ隊の中で声を張り上げていた私自身のことも。思想の是非はさておき、A氏も若者もオッサンも、理想の社会を夢見て戦っていたのだ。プロレタリアートの楽園を夢見て。

そして私もあの日、ほんの少しだけ彼らに加担していた。一瞬だけでも、私も熱かったのだ。でも今は違う。ある意味で自分の人生を決定付ける就職活動の最終面接で、役員の質問に対して異常なくらい冷めていた。役員が発した質問が自分の予想通りであったことに、内心ほくそ笑んでいたのだ。私はほくそ笑みながら、労働者に仲間入りすることを宣言したのだった。

 

 

役員は微笑みながら「最後に何か言いたいことはありますか?」と聞いた。私は胸を張って答えた。

「御社が第一希望です。是非御社で働きたいです。どうぞよろしくお願いします。」

面接官に深く頭を下げながら私は感じた。大人になったんだな、と。

インターナショナルの壮大なメロディーは、すでに私の耳から消え失せていた。

社畜が誕生した瞬間だった。

 

 

 

※ 全て実話です。

 

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