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(書評) 社畜は必読の「テヘランからきた男」。名門企業も容易に転落する様子は読んでいて虚しくなる

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私は人とか組織がどのように大きな失敗を犯すのかに非常に興味があります。それは失敗した人間のミスや罪をせせら笑って楽しむためなどではなく、自分または自分が所属する組織が同じようなミスを犯さないためにも、他人の失敗を教訓として知っておきたい思うからです。

そもそも他人の成功談より失敗談の方がリアリティがある。何故なら成功談は(特に自伝の場合は)著者の宣伝目的のためにかなり盛られて語られている可能性が高い。他方で失敗談の場合は失敗が大きければ大きいほど失敗者自身が、もしくは客観的目線をもつ他者が原因究明を行う。だから失敗談の方がリアルでそして得るものが大きい。

「テヘランからきた男」は原子力事業で7千億円もの損失を出した東芝、元社長の西田厚聰氏のインタビューをまとめた本です。何が140年もの歴史をもつ東芝を存亡の危機に立たせたのか?

イランで現地採用され、社長に成り上がるや原子力事業を6400億円で買った男は、いつ、どこで、何を、どう間違え、東芝を”奈落の底”に突き落としたのか。

この見出しだけでも、相当面白そう。

 

 

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東芝がイランに工場を建設して電球や蛍光灯を作っていたときに、工場で働きたいとやってきたのが東大の大学院生だった西田氏。イラン人女性と結婚式をあげるためにテヘランまでやってきて、そのまま東芝のイラン工場に就職しようというのだから、西田氏の経歴は異色そのものでしょう。

いきなりの社会人デビューで西田氏は経理の統一基準をまとめあげていきます。工場をくまなく歩き、イラン人工員たちとも気兼ねなく接し、専門書を読み込んで専門家並みの知識を身につけていく。イランから帰国後はパソコン事業の立て直しに着手。立て直しに成功して出世街道をばく進していく・・・。

ここまでの西田氏を見れば何故彼が出世していったのか私にはよくわかります。席の近くにこんな男がいれば間違いなく分かりますよ。好奇心旺盛で分からないことを分からないと認めてがむしゃらに知識を吸収していく。人に聞くだけでなくて原典にも目を通す。他国の文化にも精通してその国にあわせて仕事のやり方ができる柔軟性。数字にも強い。

社長となった氏はウェスティングハウスの買収や半導体への大胆な投資など「選択と集中」を実践していきます・・・

 

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その後は原子力事業の巨額の赤字や不正会計が発覚していくわけですが、それに対する西田氏の評価は自身曰く「数字に弱い」原子力技術者や後任の佐々木氏への批判に終始しています。

西田は西室や佐々木を”自分のことしか考えない人間”と断を下した。だが、残念ながら自分に囚われ続けている西田もそれと同じようにしか見えなかった。その姿は痛ましかった。株主代表訴訟を受ける身であり、メディアの批判も集中する中、西田はいつしか自己正当化を繰り返しては精神の安定を図っていてのだろうか。

社長になる前は輝かしい経歴。ただし後継者指名が失敗だった。ある人曰くパワハラ大魔王の佐々木氏を「他に候補がいないから」という理由で指名してしまった。

グローバル感覚があって、勤勉で、エネルギッシュで、数字に強い人間が会社を率いても、後継者がダメなら会社は一瞬で崩れる。劉備玄徳・諸葛孔明亡き後に滅びた三国志の蜀を思い出します。

そしてインタビュー最後の方で見える他人批判を繰り返す姿は見ていて悲しくなってくる。哲学に精通し、人を魅了した若かりしときの姿はもはやないのだろうと。これを老害的行為と切り捨てるのは簡単だが、何十もの事業を手掛ける巨大名門企業をマネジメントするという巨大な重圧の下で、結果を出すために数字に執着し続けた成れの果てなのかもしれません。

そして印象的だったのが、不正会計に対するある東芝社員の証言。

やめましょう、とは言えなかったのですか?という問いに、かつての部下は自嘲するかのように笑みを漏らした。

「自分でも驚くほどに会社人間なんですね。上司の命令、ましてや社長の命令ともなれば、さして悪いとも思いませんでしたね。会社のためだと自分に言い訳を作って・・・」

これと似たような話はいくらでもあって、有名なのは第二次世界大戦時のユダヤ人ホロコーストの指導的役割を果たしたアドルフ・アイヒマン。彼は亡命先のアルゼンチンでイスラエルの諜報部隊モサドに捕獲され、エルサレムで裁判にかけられましたが、ホロコーストについて「遺憾に思うが命令に従っただけ」と証言しました。

権威者の指示に従ってしまうのが人間の傾向なのだとすれば、サラリーマンという序列ある組織で働く自分がいつ、そのような服従の心理に陥らないとも限らないわけです。

経営者がメチャクチャな事をやりだして、それが社員の「服従の心理」とうまくかみ合った時、組織は容易に崩壊を始める。そうであれば東芝で起こったことは他人事とは到底思えない、闇は身近にあることをヒシヒシと感じました。

常日頃から「上司が言ったんでやってます。」のスタンスで仕事する人ほど危ない気がします。私も多忙で追い詰められているときは指示されたことを、それをやる意味を理会せずに機械的に処理してしまうことがあります。そんなときこそこの本の存在を思い出して自制したい。

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