資産運用をするような金融に対する知識が高い人々の間では、「宝くじを買う人間はバカ」と考える人が多い。宝くじを買っても購入者に還元される金額は45%くらいしかなく、さらに損する可能性が高いから金の無駄だ、という理屈です。私も損得勘定だけで考えれば全く同意で、宝くじを自分で買ったこともないし、これからも買わないと思います。ただし「買う人間はバカ」という短絡的な考えにはちょっと「?」と思わざるを得ない。
私の祖父のはなしです。祖父はすでに亡くなったのですが、生前は宝くじやロト6を購入しては当選してるか確認するのを楽しみにしていました。特にロト6は毎週購入していました。年寄りは引退するとやることがなくなるので、家から販売所まで散歩してロト6を1000円分を買い、結果を確認した後にそれを方眼紙で記録する、というのを30年近く継続していたわけです。
つまりロトの購入は当選して大金をゲットしたいというギャンブル的な理由だけでなく、運動やボケ防止、退屈な日々のなかのちょっとしたスリルもあったというわけです。方眼紙に記録した数字を見ながら次に当たる数字は何か考えるのが好きだったんですね。そして毎回1000円分だけ買うというルールも貫いていました。
祖父が亡くなったあとに遺品整理をしていたのですが、引き出しから出てきたのは100枚くらいもあるA4の方眼用紙がセロハンテープでつながれていたもので、毎週のロト6の当選番号がみっちりと記録されていました。一時期はエクセルで記録しようとしていたようですが、やはり70歳を超えてパソコンを習得するのは難しかったようでそれは諦めて、ひたすら方眼紙に黒鉛筆で記録していました。30年もよくもまあここまで記録したな、という感じでした。
祖父は亡くなるまでの間にロトや宝くじに合計300万円近くを投じたと思います。高額当選したという話も聞かなかったし、5000円当たれば大喜びしていたくらいなので、実際のリターンはわずかなものだったと思います。でもだからと言って、祖父がバカなことをやっていたとは思えないのです。祖父は大儲けしたいというよりも、運動やボケ防止という目的があったし、何より一回の購入で一定の金額以上は買わないと決めて実行していました。
宝くじのようなギャンブルに収入に見合わない大金投じて一攫千金狙うようなことは褒められたことではありません。ですがあくまでささやかな楽しみのためだと割り切って節度をもってやるなら、やってもいいんじゃないでしょうか。
祖父が長年記録し続けた、クシャクシャで褐色がかった方眼用紙の束を見ていると、私は思い出すのです。かつて私が小さかったころ、夏休みに祖父の家に遊びに行って、祖父と一緒に新聞の当選番号を見て一喜一憂しながら、一緒に方眼紙に数字を書き込んでいた、そんな思い出を。